『セピア色の木漏れ日は・・・。』

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2008年10月26日

「ところで、高橋くん」

「はい・・・。」

佐伯は急に真顔になると

「高橋くん、じつは今度上海へ赴任（行く）事になったんだよ」

輝雄は、ビックリして身を乗り出した。

「上海って、支那の上海のことですか？」

佐伯は、腕組みをしながら頷いた。

「ああ、そうだ、そこの領事館へな」

滝子は、幸子を見つめながら聞いた。

「ええ、初めは驚きましたけど、でも、主人の仕事がら仕方ありませんわ」

滝子は、自分がかつて島を出た時の事と、重ね合わせて尋ねた。

「知らない国（ところ）へ行くのは、不安ではありませんか？」

「そうね、でも、もう何回か経験をしたので、あんまり心配はしていないの」

佐伯は、幸子にいたわりの眼差しで見つめながら

「家内（これ）には、いつも苦労かけて済まないと思っているんだ」

「苦労なんか、していませんわ」

と幸子は、手を振り笑顔で滝子へ言った。佐伯は組んでいた腕を解きながら

「日本は、今が大切な時期なんだ。支那をちゃんとしないと世界から孤立してしまうんだよ」

「・・・・・・。」

「その為に外交官の仕事が忙しいんだ」

「でも佐伯さん、いま支那の方は、色々な事（事件）が起きていて危なくないですか？」

「そりゃ君、危険な事は危険だよ。それを平穏にさせるのが僕ら外交官の使命だよ」

輝雄は、佐伯が仕事（外交官）の話になると、情熱的に語るのを聞いて頼もしくもあり、

男らしさに惹かれていた。

※いわゆる十五年戦争と言われる日中戦争は、昭和六年九月（１９３１年）満州事変、翌年

の投弾によって、公使「重光葵」らが死傷すると言う事件があった。

昭和十二年七月（１９３７年）には、日本軍の謀略よる盧溝橋事件が引き起こされ、同年

九月に再び上海での戦闘をきっかけに日中全面戦争が始まった。

また国内では、思想弾圧が激しくなり、

昭和八年二月二十日（１９３３年）赤坂・築地署において、『蟹工船』などの

作品で知られているプロレタリア作家である

「小林多喜二（当時３１才）」が検束、虐殺されたのである。

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