フリーライターの寺坂真以が仕事場代わりにしているファミリーレストランには、名探偵がいた。店の常連ハルお婆ちゃんは、客たちが話す「不思議な話」を聞くと、真以を呼び寄せ、たちどころに謎を解いて見せるのだ。そんなお婆ちゃんにも、ある秘密があったのだが…。可愛くって心優しいお婆ちゃん探偵が活躍する、ハートウォーミングな連作ミステリー。
【目次】
ケーキと指輪の問題/走る目覚まし時計の問題/不作法なストラップの問題/靴紐と十五キロの問題/ベレー帽と花瓶の問題/ロボットと俳句の問題
(「BOOK」データベースより)
駆け出しのフリーライター・寺坂真以が書斎代りに利用しているファミリーレストランは、他の店とどこか雰囲気が違います。
すいていて、常連客が多く、店員も感じが悪いというほどでないにせよ快活でない。
どこか、暗い。
なんとなく、幸薄い感じ——
とはいえ、そのおかげか書斎代りに利用しても疎まれることがなく、真以には居心地よい空間なのでしたが。
常連客の中には、この手のお店には珍しい、お婆ちゃんがいました。
いつも決まって壁際の席にいる彼女は、ハルさんといいます。
品の良い和服を上品に着こなした、小柄で丸顔、真っ白な髪を「お正月のくわいのような形に」結いあげています。
「フィギュアを作って売りだしたら人気が出そう」という描写を読んで私が思い描いたのは、
高木ハツ江さん
!
毎日NHKでお料理の初歩を指南してくれているお婆ちゃんです。全編、ハルさんのセリフはハツ江さんの声で聞こえてきました…
ひょんなことからハルさんとお近づきになった真以。失くした指輪が、失くした時刻にはすでに焼きあがっていたケーキの中から出てきたのは何故だろう——という、身近に起きた不思議な出来事を、携帯電話で友人に話していたところ、それを耳にしたハルさんが見事に推理してくれたのでした。
パソコンも、携帯電話も、慣れていないはずなのに「便利なものでございますねぇ」と抵抗なく、整然と推理を組み立てるハルさん。
素晴らしくシャープな頭脳のはずですが、推理を聞くとなんともほっこりした気持ちになってしまいます。
上品で柔らかな言葉は、まるであんみつのような味わい。
(先日友人と行った 日本茶カフェ
の「抹茶クリームあんみつ」…)
日本茶や和菓子が似合いそうなお婆ちゃんがなぜ、ファミレスに来ているのか。
その不思議な理由は読み始めてすぐにわかります。
それにしても、パソコンに興味津々だったり、ウェイトレスさんがコーヒーを運んでいるのを見るのが好きだったりと、好奇心旺盛な様子がキュートです。
このファミレスの従業員に「幸薄い人たち…」という印象を持った真以でしたが、どうも、自分もその中に入るのでは?と思うようになります。
不思議な出来事をハルさんに解決してもらう日々のうちに、真以はある男性に思いを寄せるようになるのですが、ハルさんも見守っているその恋の行方は?
真以は本当に幸薄い?それとも…?
ハルさんには、わかっているのかも。そんな気持ちで、微笑みながら読んで、にっこりと閉じることができる、優しい一冊でした。
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