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2014.10.27
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カテゴリ: ss

 朝起きると、久しぶりに懐かしい天井を見た。
 小学生の頃は夏休みの数日を過ごしていた祖父母の家。
 中学に入ってからは、さして遠くもない祖父母の家は泊まりに行く場所ではなくなった。
 だから、畳に布団も久しぶり。
 夜に何回か友達や部長から連絡があったが、すぐに返事をしたくなくて放置。
 担任にだけは父親が生きていて、今のところ集中治療室で意識不明とだけ説明した。今日、学校に行く旨も。
 幸いなことに、祖父母の家は実家と電車の駅3つ分離れているだけだ。
 普段自転車通学している俺としては、普段使わない電車で通学になるため、電車の時間など下調べをしておいた。

 普段は睡眠時間が削られるのは痛いと思うところだが、今日はあまりよく眠れなかったので、気ならなかった。
 頑張れば祖父母の家から自転車で行くことも可能だったが、病院に向かうため自転車は学校の最寄の駅に置いたままにしてしまった。今思えば慌てていたので鍵をしていたか不安だったが、いつもの習慣は無意識に行われていたようで、ツーロックはちゃんとかかっていて、愛車はどこにも連れされれることなくそのままの場所で待っていた。
 自転車にのると、昨日と何も変わらない、同じ一日の始まりに感じる。

「直樹、おはようさん」

 自転車置き場で鍵をかけていると、すぐ隣に中学から一緒につるんでいる村田龍之介が同じように自転車を止めに来る。一重で目つきが悪いので、第一印象が悪く、すぐに怖そうな人、などと言われてしまう。関西弁がそれに輪をかけてしまうが、どちらかというと繊細で優しい部類に入ると思う。中学からこちらに引っ越してきた彼の、12年分身にしみた関西弁はそう簡単に抜けない。
「顔色が悪んやない?」
 開口一番の指摘が俺の顔色って、いい奴だ。寝不足だし、いろいろ心情的にキツいし、思わずほろりと甘えたくなってしまう。自転車の鍵をかける龍之介を待って、並んで校舎へ向かう。
「昨日、父さん事故って入院しちゃってさ」
「そやから昨日早退したんか。大変やったんと違う?」
 俺自身の心配をしてくれる龍之介には自然とぽつぽつと話しができてしまう。
 下駄箱では知り合いから挨拶を掛け合い、それぞれの教室に向かう。

 そこここで仲良し同士が顔を寄せ合って笑いあっている。
 何も変わらない。何も起こってない。
 全く意識していなかった日常を、一つずつ感じる。
 教室のドアを開けると一瞬声が止まり、好奇の入り混じった視線を感じる。これは昨日と違う。
 昨日の今日で、自分の身の振り方をどうするべきかわからず、口の中で挨拶をしつつ、向けられる視線を振り払うように目を伏せる。

 いつも、って俺、どうしてた?
 意識しだすと、『普通』がわからなくなってくる。
「何してんねん」
 入り口で立ち止まってしまった俺の背中を、龍之介がつつく。
 慌てて足を進めると、龍之介はさっさと自分の席に向かう。
 またざわめきを取り戻す教室にほっとしながら自分の席に向かう。
「なーおき、はよっ」
「のわっ」
 後ろからやってきた田村昌斗の元気な声とともに体ごと背中にのしかかられる。元バスケ部の昌斗は無駄にでかい。思わず声が出てたたらを踏んだ俺の背中から、昌斗はすぐに離れたが、ヘッドロックの要領で、強引に席まで引きづられる。俺を座らせると、昌斗もすぐ前の椅子を跨ぐように腰掛ける。自分の席ではないのに我が物顔だ。
「おはよ。朝から元気が有り余ってるな」
 俺の顔を覗き込んでいた昌斗に、やっと挨拶の言葉が出た。
 だからだろう。2枚目とは言いがたいが、愛嬌のある顔の昌斗は目を輝かせて、待ってましたとばかりに口を開く。
「思ったより元気そうじゃん。直樹お前なぁ、昨日連絡しても返事ねぇし、どうなったんだよ」
「デリカシーがない男はもてへんで」
 向かい合う俺と昌斗の隣に荷物を置いて身軽になった龍之介が立つ。
 そうだ、いつもの感じだ。
「うっせーな、無愛想な龍よりはもてるんじゃね?」
「あり得へんな」
「何だよ、その根拠のない自信!」
 背もたれを抱えるような形ででぎゃんぎゃん噛み付く昌斗に龍之介が短く切り込む。両手をズボンのポケットに入れたまま立っていると龍之介のほうがずいぶん堂々として、大人に見える。二人とも同い年のに、兄弟に見える。
「直樹が出て行った後さぁ、一応授業再開したんだけど、ざわざわが止まんなくてさ。でもしょうがねえじゃん?先生がめっちゃ困って何回もさ『あー気持ちはわかるが、今は授業中です』って、すげーウケた。国語の先生だから気持ちがわかっちゃうわけ?って」
「昌斗がざわざわの筆頭やろ」
 にぎやかな昌斗と静かな龍之介の掛け合いが心地いい。
 昨日のことを話す隙を与えないくらい昌斗はしゃべり続けた。それはおしゃべりな昌斗にとっては至って違和感のないことだとは思うが、今は感謝した。
 すぐに担任が来て無秩序だった教室が、わたわたと秩序を持ち出す。龍之介は片手を上げてそつなく自分の席に戻る。昌斗も本来の席の主にお礼を言って、借りていた席から立ち上がる。
「俺だって、これでも心配したんだってこと」
 言いながら、昌斗は俺を乱暴にぐしゃぐしゃとかき混ぜながら自分の席に戻っていく。
 昌斗と龍之介の正反対に見える優しさに、胸の重さを少しだけ忘れさせてもらった。代わりに甘やかされているような、何かくすぐったい気持ちに思わず顔を伏せるしかなかった。


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最終更新日  2014.11.29 22:32:39
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