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”一筋の日矢”
朝目覚めたら、あなたの姿はなかった。
休日出勤だったんだ・・・
お布団をあなたの代わりに、
私の身体にしっかり絡ませて、
あなたはお出かけなさったのね。
愛おしさを伝えるところがなかったので、
わたしはあなたの残り香のする布団と枕を
ギュッと抱きしめてみた。
窓からは陽が差し込まず、
どんよりとした空がのぞいていた。
曇天や雨天の日の休日は、
いつもより1時間以上も遅く目が覚めるのよね・・・
っとわたしは声にだして言ってみた。
上半身を起こすと、
あなたが煎れていった、
コーヒーの香りらしきものが漂ってきて、
わたしは空腹に気がついた。
それからわたしは顔をあらって、髪を梳かした。
その鏡に映っている顔は、
もう決して若いとは言えなかった。
一週間の仕事の疲れが残っているかのように、
目にはうっすら隈があり、
口を大きく開けて歯ブラシを動かすと、
口の横には細かいけれど、
たくさんの皺ができていた。
これが今のわたしの姿
っとなんの感慨もなく
もうひとりのわたしに、そのわたしをみつめさせた。
あなたの煎れてくださったコーヒーを温めながら、
バターを冷蔵庫から出し、
フライパンを温め、卵を割り、
トーストを焼いた。
トマトを薄く切って卵に添えた。
あなたと一緒だったら、
チーズ入りのサラダも作っていたけれど、
ひとりの朝食ならこれで充分だもの。
あなたはいつだって、この素敵なお城で、
わたしが好きなように過ごすのを許してくれる。
わたしは気まぐれだから、
野良猫のように、寂しくなったり、心身が寒くなったり、
あるいはあなたが迎えに来てくれたり、
手招いてくれるとここへやってくるの。
そんな時がもう5年以上続いている。
わたしは自分がどうしたいか・・・
あまり考えない。
なんとなく自分の気持ちには気がついているけれど。
ではあなたの気持ちはどうなのか?
それもわたしは考えない。
あなたが煎れてくださるコーヒーは上物で、
いつだってわたしの舌と鼻にすばらしい刺激を与えてくれる。
カップに残り少なくなったコーヒーを惜しみながら、
わたしは使った食器を洗った。
ふと気が付くと雲間から太陽が顔を覗かせ、
窓越しにわたしの顔を照らした。
・・・まだ私達の上の空は曇ばかりの空なのね。
でも、いつかきっとその厚い雲の間から、
あなたとわたしの上にも、
陽が差し込むときがくるのでしょう。
ご機嫌なときに出てくるあなたのいつもの鼻歌を、
わたしも口ずさんでいた。

顔中に髭を生やした男 2017年01月17日
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