★モイラの名画座★

< 新しい記事

新着記事一覧(全1143件)

過去の記事 >

2007.02.17

「魔性の女」と呼ばれたけれど‥‥★「Kamome」

(4)

カテゴリ：独断と偏見に満ちた映画評

昭和57年に、松山で美人ホステスを殺害し、金品を奪い、
美容整形で顔を変え、その後１５年近くも日本各地で逃亡生活を送るも、
時効成立の寸前に福井で逮捕された女・福田和子‥‥
彼女の名前は、まだ人々の記憶に新しいですね。
そんな福田和子の罪と逃亡劇を、かなり彼女の実像に迫って描いたのが、この映画「Kamome」（'99年作品）です！

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

カモメ　犯人福間和江の殺人逃亡5459日の欲望/清水ひとみ　田口トモロヲ　絵沢萌子【中古】【邦画】中古DVD
価格：5000円（税込、送料無料) (2022/6/9時点)

楽天で購入

元アイドルストリッパーの清水ひとみ演じる福間和江が、地獄谷のような場所で、ここかしこにある不動明王像や地蔵の姿に怯えるシーンから始まり、和江のナレーションが始まります。
「違いますよ刑事さん‥‥１５年も逃げきろうなんて、思ったことありません。毎日毎日、自首することばかり考えてましたよ‥‥」
しかし、そんなしおらしい告白は、ほどなく嘘だとわかります。
和江は松山のクラブに勤めたものの、この時すでに二児の母で３０半ば、
若く美しいナンバーワン・ホステスに、かなうはずがありません。
若さ、美貌、崩れていない体型、そしてお金‥‥
自分が持っていないものをすべて持っているナンバーワンに嫉妬し、
くわえて相手に嘲笑され、かっとなって衝動的に絞殺。
その死体の始末を、こともあろうに夫に手伝わせ、生まれ育った松山から逃亡するのです。
しかも和江は、事件の前から他に男がいたというのだからすごい！

東京に出た和江は、有名な美容外科病院で整形手術を受け、
作りものの顔と、ホステス時代に培った媚態、抜群のセックステク、
そして何より動物的な鋭い嗅覚と、天才的な嘘で、逃亡を手助けしたり、隠れ家を提供してくれそうな男を見つけては、次々とたらしこみ、日本各地を逃げ回ります。
金沢の和菓子屋の亭主を落とし、女将におさまり、松山からなんと息子まで呼び寄せて、店で仕事をさせ（この女性の神経回路はどうなってるのかなと、思いました。）
ある日、警察の追っ手が迫ってきたことを察するや、とっさに近くにあった自転車に飛び乗って、逃走‥‥！

その後も和江は各地を転々としますが、その逃亡生活は惨めです。
ラブホテルの清掃員として働いたり、
寒空の下、街娼になったり、それもできない時は、ホームレスに‥‥
和江はホームレスに堕ちるよりも、鉄格子の住人となることのほうが、ずっとこわかったのです。
なぜなら‥‥彼女は未成年の時、強盗事件に関わったことで、松山の拘置所に収監されたことがあるのですが、
その時、こともあろうに看守の手引きで女子房に入り込んだヤクザにレイプされたのですから。
十代でこんなひどい経験をすれば、モイラだって「塀の中よりダンボールハウスのほうがまし！」と、思いますよ。

そして、流れ流れて福井にたどり着いた和江は、時効寸前に逮捕されます。
テレビで繰り返し流した「危ない危ない‥‥」という松山訛りの電話の声と、
高額な懸賞金がモノを言ったようですね。

中村幻児監督は、和江にことさら感情移入をせず、どちらかというとサラリとしたタッチで描いています。
間違っても、彼女の魔性を前面に出した「お色気一辺倒」にはなっていない。
「女」の側面もたくさん持ち合わせているけど、「子どもたちのよき母」「家庭的な女性」としても描いています。（実際、福田和子元受刑者は、家事をきちんとやり、子どもたちには毎日、手のかかったお弁当を作ってあげていたそうです）
「魔性の女」と呼ばれた人だけれど、強欲な金の亡者で、身内や第三者に多額な保険金をかけて惨殺するような、いわゆる「モンスター的な毒婦」とは全然違う、
むしろ哀しいほどに人間的で、性格的にももろくて弱い人だったんじゃないかなと思えます。自分より若くてきれいな女性にちょっと嘲られたくらいで、かっとなって殺すなんて、性格的な弱さのあらわれでしょう。

和江が長い逃亡生活に疲れ果て、海に入って自殺しようとするけど、恐ろしくなって立ちすくみ、全身を波打たれながら、わが子の名を叫んで、「ごめんなあ、ごめんなあ‥‥！」と激しく泣くシーンが、モイラにはとても印象的でしたね。

忘れてました‥‥中村幻児監督はこの作品で、自らも刑事役として出演しています。
そして、平成１７年３月１０日、福田和子元受刑者は獄中で脳梗塞に倒れ、塀の外の病院に運ばれるも、手当ての甲斐なく死亡しました。
しかし‥‥言うまでもありませんが、一番お気の毒なのは、彼女に殺害された女性です。ご冥福をお祈りいたします。

★福田和子関連本★