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2007.02.23

やっと掴んだ幸せなのに…★「夜霧のブルース」

(6)

カテゴリ：独断と偏見に満ちた映画評

数ある裕次郎主演の日活アクション映画の中でも、少々異色なのが、この「夜霧のブルース」 ('63年　日活）です。

夜霧のブルース

横浜港の荷役を一手に牛耳る野上組のもとに、順三（石原裕次郎）という男が乗り込んでくる。
順三は野上組のライバル会社・岡部組で荷役人夫として働いていたが、
岡部組は先日、労働争議の果てに幹部社員が銃をぶっ放し、全く無関係の妊婦を謝って射殺してしまったことで、会社生命を断たれ、今や港は野上組の天下となっていた。
順三はコートに隠した銃らしきものを野上組の幹部につきつけ、すごむ。
「あの妊婦の誤射は岡部組の仕業じゃない。お前ら野上組がやったんだ。荷役の仕事を一人占めしたくて、岡部組をつぶすために、仕組みやがったんだ!」
そして順三は、しぼり出すように叫ぶのだ。
「撃たれて死んだ妊婦は、俺の女房だ…！」

順三の脳裏に彼自身の過去が浮かぶ…
順三はかつて神戸でかなり顔の売れたヤクザだったが、
ある日、喫茶店に入った時、オルガンが奏でる賛美歌の調べに、心を洗われる。その賛美歌は少年時代、今は亡き両親とともに通った満州の教会でよく耳にしたものだったのだ。
そして、オルガンを奏でるみち子（浅丘ルリ子）の清純さにも心惹かれる。
順三がヤクザと知って戸惑うみち子だが、彼が根っからの悪人ではないことを知るや、彼女も順三に熱い想いを抱く。
「みち子と結婚するためには、ヤクザから足を洗わなければならない…」順三は組長（小池朝雄）が三下どもに命じた凄惨なリンチにも耐え抜き、ヤクザの世界から脱出する。
順三とみち子は結婚し、横浜の小さなアパートで暮らし始め、順三はやっとの思いで荷役の仕事を見つける。そしてしばらくして、みち子のお腹の中には、新しい命が…！
貧しいながらも、やっと幸せを掴んだ二人…
ところが… 一発の銃弾が非情にも、みち子とお腹の子どもの命を奪ったのだ！　

この映画が公開された当時の映画雑誌によると、
主人公が敵に過去の出来事を小出しに話し、回想シーンが多用されているのが、
前年、大きな話題を呼んだ松竹の時代劇映画「切腹」（小林正樹監督）の真似だという批判もあったそうですが、（確かにシナリオの構成はそっくりです）
回想シーンに無駄なところがなく、ことさらに悲劇を強調した点もなく、
「上手にシナリオを作ってるなあ…」と思いました。
またこの作品には、今までの裕次郎映画では見られなかったホームドラマ的な要素がありましたね。
順三がみち子の大きくなったお腹に耳をあて、「あっ、（赤ん坊が）動いた！」と叫んで、幸せいっぱいの笑顔を浮かべるシーンは、忘れられません。
妻と子を理不尽に殺された男の復習劇なのですが、当時喧しかった労働争議の問題や、ラブ・ストーリー、ホームドラマも織り込み、
質の良い娯楽映画に仕立ててあります。
野村孝監督

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