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2007.04.05

藝術のコラージュ★「気狂いピエロ」

(6)

カテゴリ：独断と偏見に満ちた映画評

S・キューブリック、J・カーペンター、鈴木清順、大林宣彦など、鬼才と呼ばれる映画監督は多いですが、
鬼才の中の鬼才ジャン・リュック・ゴダールではないでしょうか？
そして、そのゴダールの大傑作と言えば‥‥1965年のこの作品ですね！

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原題は"Pierrot Le Fou"（ピエロ・ル・フ）。
「気狂いピエロ」と訳されていますが、「気狂い」というよりはむしろ、
「おばかさん」という意味合いのほうが強いのではないかと、
フランス語に詳しい某映画監督が、おっしゃっていましたね。

パリでのブルジョアの虚栄に満ちた生活にうんざりしていたフェルディナン（ジャン･ポール･ベルモンド）は、
マリアンヌ（アンナ･カリーナ）と車で南仏へと向かいます。
マリアンヌはフェルディナンをピエロと呼び、フェルディナンはそのたびに「僕はフェルディナンだ！」と否定。
ところが、南仏の田舎でひっそりと暮らすつもりが、マリアンヌの裏切りなどで、
予想もしない方向に‥‥！

この映画は、シナリオがない上に、演出はすべて即興。
だから、「え？」と思うような展開や、「なんで？」と首をひねるようなカットやシーンがてんこ盛り。わけわからないシーンもたくさんあります。
この手の映画って、途中で頭が混乱したり、つまらなくて眠くなったりするものが多いですが、
「気狂いピエロ」は違う！２時間ほどの作品でしたが、モイラはわけがわからないながらも、スクリーンに目が釘付けでした。
きっと、ゴダール監督の卓越した演出のおかげでしょうね。
光と影、色‥‥特に赤、青、黄色の三原色を、それはうまく使い、カメラ･ワークも斬新。
そして、素晴らしいのは、セリフやモノローグ、ナレーションに、
プルースト、バルザック、ヴァレリー、ブラウニング、チャンドラーなどの文豪の名作が多数引用され、
それがまた、独特の映像を際立たせているんです。
ラストに引用されるランボーの詩が、じーんと来ましたね。
主役のベルモンドや、相手役のカリーナも名演だったけど、
「鬼才だなあ‥‥」と思ったのが、ベルモンドが桟橋で出会う頭のイカれたおじさん。
そのおじさん、過去に付き合った女のことを、一方的に延々と陶酔したようにベルモンドに話すのですが、
急にひきつった顔になって、彼を揺さぶるのです。
「言ってくれ！私は気狂いだと言ってくれ！」
このセリフには、思わずひきつけられましたねえ。なんか傷ついた人の魂の叫びを聞いたような思いでした。

ヌーヴェル・ヴァーグを食わず嫌いしている人も、結構いるようですが、
この作品は、案外すんなり受け入れられるんじゃないでしょうか？
わけわからないながらも、なぜかひきつけられる‥‥そんな名作です。

★もっとゴダール監督！★