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2007.04.06

丹念な演出と繊細な演技の賜物★「近松物語」

カテゴリ：独断と偏見に満ちた映画評

1984年のきょう４月６日、往年の二枚目俳優長谷川一夫は、その銀幕生涯を閉じました。
1908年、京都で生まれた彼は、戦前の松竹時代は林長二郎の芸名で、「雪之丞変化」などで妖艶な二枚目を演じ、
その後、東宝に移籍。そのゴタゴタで、役者の命である顔をヤクザに切られ、
一時は俳優生命すらも危ぶまれていましたが、長谷川一夫の新しい芸名で見事に復活！
以後もさまざまな名作、大作に、主役として出演し、世の女性たちを魅了してきました。
きょうは、永遠の二枚目スターの追悼の意をこめて、モイラが最も好きな彼の主演作にして、溝口健二監督の大傑作「近松物語」（'54年　大映）をとりあげます！

[DVDソフト] 溝口健二大映作品集Vol.2 1954-1956

近松門左衛門の名作「大経師昔暦」の映画化。
京都の名門の暦屋・大経師の手代・茂兵衛（長谷川一夫）は、仕事一筋の真面目な男で、横暴でケチな主人以春（進藤英太郎）にもよく仕えているが、
実は、密かに以春の後妻おさん（香川京子）に、心を寄せていた。
以春が女中のお玉（南田洋子）を妾にしようとしていたり、おさんの実家が経済的に逼迫しても、びた一文貸さない冷たい仕打ちを見聞きし、おさんに対する同情が、いつしか愛情に変わっていったのだ。
おさんへの愛情から、ある日茂兵衛は帳簿をごまかして彼女に金を貸し、
それが以春にばれて、大騒動。
おまけに、おさんの寝室に、何の邪心もなく、たまたま入り込んだことを、主手代（おもてだい）の助右衛門（小沢栄太郎）から、不義密通と騒ぎ立てられ、
茂兵衛もおさんも屋敷にいられなくなり、夜中、飛び出し、あてもない旅に‥‥

不義密通‥‥今で言う不倫は、当時では磔に処される大罪。
けれど、甲斐性のある男が妾を囲うことはなんら罪に問われず、不倫をした妻と相手の男だけが罰せられる‥‥　
なんという理不尽さ‥‥！それを近松は怒り、この名作を世に出したんでしょうね。
モイラが思うに、近松という作家は、当時としてはとても新しい考えの持ち主だったのではないでしょうか？

溝口監督のこの映画も、また素晴らしい！
封建制度と男尊女卑にがんじがらめだった大店の内儀の心の叫び、
その内儀に密かに想いを寄せる手代のやさしさ。
そして最後は、二人とも堂々と「愛し合っている」と公言し、
むしろ晴れやかな顔で、胸を張って刑場に引かれていく‥‥
封建制度、男社会への精一杯の抵抗ですね。でも、その姿がなんとも美しいのです！
名カメラマンの宮川一夫が撮影した、モノクロームの映像がまた美しい。
特に、茂兵衛とおさんが川に飛び込んで心中しようとした時に、茂兵衛がおさんに初めて愛を告白し、それを聞いたおさんが、「私は死にたくなくなった！私もお前が好き！お前と生きたい！」と縋りつく長回しのシーンは、
世界映画史上に残る名場面です。
美男美女の俳優を、モノクロならではの美しさで見せていましたね。

いま、軽い気持ちで出会い系サイトなどにアクセスしている方々、
軽い気持ちで会社の若い女の子に手を出しているおじさんたち、
どうかこの映画をごらんになって、お考えになってみてくださいな。
「自分はおさんと茂兵衛のように、胸を張って『不義密通』だと世間に公表できるだろうか‥‥？」と。

★もっと長谷川一夫！★