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2007.04.25

軍隊は天国?!★「拝啓天皇陛下様」

(2)

カテゴリ：独断と偏見に満ちた映画評

２年前の４月８日に、85年の生涯を閉じた野村芳太郎監督は、「砂の器」「鬼畜」など、松本清張原作の社会派サスペンス映画で有名ですが、
心あたたまる、ちょっとほろ苦い人情悲喜劇も撮っています。
その中でも特に評価が高いのが、'63年度、渥美清主演のこの作品でしょう。

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昭和の初め、徴兵検査を受けた棟本博（長門裕之）は、乞食のような格好で検査に現れた、ずんぐりむっくりの山田正助（渥美清）という男を見て驚く。
聞けば山田は両親と早くに死別、以後、学校にも行けず、世間の冷たい風にさらされ、食うや食わずの生活を送り、
「軍隊なら三度の飯が食える！」
棟本や山田ら初年兵を待っていたのは、軍隊の厳しい訓練と、先輩の怒号、鉄拳制裁。
しかし、「三度の飯が食えるなら‥‥」と、山田はまるで意に介さない。
ほどなく山田たちは２年兵となるが、中隊長（加藤嘉）が山田のあまりの無学文盲を見かね、
小学校の代用教員をしていた新兵・柿内（藤山寛美）に、訓練後、山田の読み書きの教師を務めさせる。
山田は辟易しながらも勉強を始め、数ヵ月後には少年雑誌が読めるほどになる。
昭和７年、山田は演習の時、実物の昭和天皇を目のあたりにする。
威風堂々とした怖い人物だと思っていた天皇が、優しい風貌なのに驚き、山田はこの時から天皇が大好きになった。
そして、戦争が終わりそうだといううわさが流れると、山田は食い扶持を失ってはたまるかと、「拝啓天皇陛下様」と、たどたどしい字で天皇に手紙を書こうとする。
棟本はあわてて、「直訴は不敬罪じゃぞ！」と山田を制する。
まもなく日本は太平洋戦争へと突入。山田は軍隊という名の「天国」で、たくましく生き延び、棟本は軍部に踊らされ、戦気高揚の軍隊小説を書き飛ばし、一躍「文化人」となるが、
山田に目をかけてくれた中隊長は戦死、そして敗戦‥‥　
山田はもう軍隊にも戻れず、住みにくい娑婆で、ヤミ屋をやったり、開拓団に入ったり、果ては滝で自殺した人の死体を引きあげて運ぶ仕事をしたり‥‥
さまざまな紆余曲折の末、女房にしたい女を見つけ、めでたく婚約。やっと、やっと、軍隊以外の天国を掴んだかと思ったが‥ ‥

「三度の飯が食える軍隊は天国だ」‥‥飽食の時代を生きる現代人には、理解しがたいで言葉ですが、
本当にそう感じた人が、結構いたそうです。
たとえば、東北地方の貧しい小作人の息子。入隊して初めて白いご飯を食べた、なんて人がいたんですって。
昭和の初めは、まだまだ日本も貧しかったんですよね。

初年兵が先輩から怒号を浴びせられ、いびられるけど、その彼らが２年兵になると、今度は新しい初年兵に怒号を浴びせる。歴史は繰り返すって、本当ですね。
軍隊の人間模様を、野村監督はコミカルに、シニカルに描いています。さすが軍隊経験のある監督ですね。
登場人物がまた魅力にあふれています。
無学で、生きること＝食べることという公式しか持たない男だけれど、それだけに純粋で、惚れた女にはとことん尽くす、まったく憎めない山田正助。
ちょっとインテリを気取っているけど、山田の生涯のよき友となる棟本。
山田の境遇に同情し、読み書きを教え、就職まで世話する人情厚い中隊長。
シナリオもよく出来ていますね。
映画のところどころに出てくるタイトルもまた秀逸です。特にラストシーンのタイトルは‥‥
モイラはこの映画を、野村監督の最高傑作だと思っています。

野村芳太郎監督は、大正、昭和初期の劇映画の基礎を作りあげ、松竹蒲田撮影所長も務めた野村芳亭監督の一粒種。
'41年に慶応義塾大学卒業後、松竹大船撮影所に入社。
しばらくして軍隊にとられ、復員後、助監督として復帰。
'52年「鳩」で監督デビュー。以後、数々の名作を撮りました。
さすが、お父上芳亭氏の血をひいたサラブレッド！否、お父上よりも素晴らしい仕事をしたんじゃないでしょうか‥‥
同じ映画人の一粒種でも、このモイラとは大違いでございます‥‥（なんか哀しくなっちゃった）

★もっと野村芳太郎監督！★