★モイラの名画座★

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2007.06.05

皮肉な運命★「生きない」

カテゴリ：独断と偏見に満ちた映画評

たけし軍団のダンカンがシナリオを書き、
自ら主演している映画「生きない」（'98年）‥‥
日本には数少ないブラック･コメディの秀作にして、
上質のロード･ムービーです！

　生きない / ダンカン

新垣（ダンカン）が添乗員を務める「２泊３日沖縄日の出バスツアー」の客は、
借金で首の回らない保険金目当ての自殺志願者ばかり。
新垣や運転手、バスガイドも自殺志願者で、
彼らは旅行中、バスごと断崖絶壁に転落して死ぬつもりだった。
ところが‥‥自殺志願者でもなんでもない、一人旅の若い娘（大河内奈々子）が、
そうとは知らずに、死出の旅へと向かうバスに乗り込んでしまったから、さあ大変！
保険金を遺族に渡したい新垣は、気の毒だが、彼女も道連れにしようとするが‥‥

初めて書いたとは思えない、骨組みのしっかりしたシナリオで、
笑わせるところは思い切り笑わせ、
死出の旅を急ぐ自殺志願者たちの心の機微も、上手に描いています。
沖縄本島の各名所や、南国の雰囲気も、観光PRっぽくなく撮られていて、
それが却って癒されます。
ロカルノ国際映画祭で特別賞を受賞したのも、わかりますね。
途中、ダンカンがシーサーを手にするカットが、いくつか出てくるのが、
あまり意味がなく、少々目障りでしたが、
自殺志願者同士のかけあいは、さすがコメディアン！と唸らせるほど秀逸でした。
「断崖から飛び降りるのって、痛いかな？」
「痛いだろう。剃刀の刃で歯を磨いたときぐらい」
主演のダンカンも、作品中で１回も笑顔を見せない、死にとりつかれた男を上手に演じていましたが、
左右田一平、石田太郎、村野武範といった芸達者が、
自殺志願者を生き生きと晴れやかに演じているのが、またおかしい！
でもモイラはスクリーンを見つめながら、「生きようよ、生きようよ‥‥」と
心の中でつぶやいていました。
ラストは‥‥皮肉です。人間っていつどうなるか、わからない‥‥
この映画はそのことを、強く訴えかけているようです。