春、夏、秋、冬、そして‥‥★「遥かなる山の呼び声」

2007.06.13

春、夏、秋、冬、そして‥‥★「遥かなる山の呼び声」

(2)

広々とどこまでも続く緑の原野、放牧の牛の群れ、
青空高く花の美しい涼しい夏、そして、吹雪の荒れ狂う厳しい冬‥‥
そんな北海道を舞台にした映画は、たっくさんありますが、
中でも多くの人の心を強く打ち、涙腺を緩めたのが、'80年松竹のこの作品ではないでしょうか。

遥かなる山の呼び声（期間限定）

原野広がる道東中標津。
民子（倍賞千恵子）は亡夫が遺した牧場で酪農をしながら、一人息子の武志（吉岡秀隆）を育てていた。
春、雨の強い晩、見知らぬ中年男（高倉健）が戸を叩き、一晩納屋に泊めてほしいと民子に申し出た。
その晩、牝牛の１頭がお産をし、男はその手伝いをすると、朝、去っていった。
ところが夏になって、またその男が民子の家に来て、無報酬でいいから酪農の手伝いをさせてほしいと申し出るのだ。
民子は、どこの誰ともわからぬ男を内心気味悪く思いながらも、
ただでさえ女の細腕で牧場を支え、人手がほしかったので、雇うことにした。
父のいない息子の武志は、すぐ男になつくようになった。
ところが‥‥その男・田島耕作は、とてつもなく重い十字架を背負った男だったのだ！

道東の風景や四季の移り変わりを、実に美しく撮っていますね。
さすが「寅さんシリーズ」で、日本の四季折々の風景を紹介してきた山田洋次監督です。
同じ道東を舞台にした「幸福の黄色いハンカチ」が、やや寓話的なストーリー仕立てであるのに対し、
こちらは、厳しい自然の中で生きる北海道の人々の生活感に根付いたリアリズムに
かなり焦点をあてています。
子育てしながら、朝早く、きつい酪農の仕事を健気にこなす民子の姿（そのたくましさには、脱帽です！）
そんな民子を何かと案じるとなりのおばさん（杉山とく子）。
中標津という狭い世界の中で、顔役を気取って威張っている虻田三兄弟。
いかにも北の酪農の地にいそうな人々でしたね。
そこへふらりと現れ、また去っていく耕作という男も、背中や横顔に哀愁を漂わせていて、
じ～んときました。
当時子役の吉岡君も、名演技でしたね。
冬の朝、耕作が警察に連れて行かれ、「おじさんどこ行くの？」と、泣きじゃくりながら母親に訊ねるシーン、
泣きましたねえ。泣かされましたねえ‥‥
でも、全体的にはとても心温まる作品です。
「感動の名作人情劇」という表現がふさわしい映画でしょう。

★高倉健★