人間、このちっぽけな存在‥‥★「砂の女」

2007.07.08

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華道・草月流三代目家元で、陶芸家、舞台美術家でもある勅使河原宏がメガホンをとり、
原作者安倍公房自らが脚本を書いた「砂の女」 ('64年）‥‥

[DVDソフト] 砂の女特別版

夏のある日、高校教師の男（岡田英次）が、昆虫採集のため、荒涼と広がる砂地にやってきた。
彼は蟻地獄のような穴の下、まるで砂の中のような場所に一人で暮らす未亡人の女（岸田今日子）の家に泊まることになったが、
翌朝、穴を降りていった時に使った縄梯子が外されていた！
この砂地の集落は、押し寄せる砂を家からかき出さないと、暮らしていけず、
男はその砂かきの労働力として囚われの身となったことを悟り、愕然となるが‥‥

一面に広がる砂の風紋、浸食の様子が不気味だけれど、目を見張るほど美しいのに驚きました。
まるで砂が妖しい生き物のようでした。
女が住む砂の中のあばら屋も、質素というより、「これが人間の住む所か？」と思うようなものでしたが、
一切の無駄を排除した、人間という生き物の暮らしの原点を思わせるような神々しさを感じました。
岸田今日子演じる砂の女が、実にふてぶてしいというか、たくましいというか‥‥
上から砂が降ってきても、特に意に介するふうもなく、淡々と日々の暮らしを送り、
家に砂が溜まれば、黙々と砂かきをし、そんな文明社会とはおよそかけ離れた生活を、むしろ楽しんでいるふしがありましたね。
ある種の原始社会に、文明人の男がひょんなことから飛び込んできたという寓話は、
モノがあふれ、人が名誉欲、金銭欲に血眼になる文明社会への強烈なアンチテーゼとアイロニーですね。
男が蟻地獄から出られない焦燥感と空白感から、女を抱く場面は、
実にエロティックで、これまた美しかったです。
ここまで美しいセックスシーンは、日本映画には珍しいのではないでしょうか‥‥？
武満徹

映画の中の風にうごめく広大な砂地を見ていると、「ああ、人間ってほんとうにちっぽけな存在だなあ‥‥」と、つくづく思わされました。
人は自然を支配などしていない、逆に支配され、生かされているんだということも、身にしみましたね。

世界二十数カ国語に翻訳された小説「砂の女」‥‥
映画も海外で非常に評価が高く、カンヌ映画祭審査員特別賞を受賞しています。

★勅使河原宏の美の世界★