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2007.07.09

戦争という名の愚行★「肉弾」

カテゴリ：独断と偏見に満ちた映画評

どんな大義名分を掲げたところで、所詮は大量殺戮に他ならぬ戦争‥‥
有史以来、人間が何度繰り返してきたかわからぬ最大にして最低の愚行を、
「独立愚連隊」「ああ爆弾」の鬼才・岡本喜八監督が、
ひとりの無名戦士を通してコミカルに、そしてシニカルに描いた傑作が、
'68年のATG（アート・シアター・ギルド）作品「肉弾」です。

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昭和20年８月、特攻隊員の”あいつ”（寺田農）は、
ドラム缶に魚雷をくくりつけただけのチンケな特攻船に乗り、
太平洋上を漂っていた。
暢気な学生の時に徴兵され、上官からサンドバッグみたいにブン殴られ、
戦争の大義名分や愛国心を叩き込まれても、ピンとこなかった”あいつ”だったが、
特攻隊員として花と散り、軍神となる運命が決まり、
１日だけ外出を許された時に知り合ったセーラー服の少女（大谷直子）、
古本屋の老主人（笠智衆）と、観音様のような老妻（北林谷栄）や、
砂丘で出会った小さな兄弟や、海岸で出会ったモンペのおばさん（三戸部スエ）などが、
”あいつ”の守るべき「祖国」となった。
しかし‥‥やっと遅まきながら、なりたくもなかった軍神になる決意を固めた”あいつ”に、
意外な知らせが‥‥

豊橋陸軍予備士官学校に在籍中、空襲に見舞われ、戦友たちの死を目のあたりにし、
戦争というものに激しい憤りと嫌悪感を抱いたという岡本監督。
その憤りを、直球ではなく、ブラックコメディという変化球で
見事に表現しています。
乾パンの盗み食いが見つかった”あいつ”が、田中邦衛扮する上官から、
「ガダルカナルを思えッ！硫黄島を思えッ！」と怒鳴られ、
「○○（戦地）も、△△も思いましたが、空腹を我慢できませんでしたッ！」
と、答えるやりとりには、「精神主義で愛国心が培えるか！」という痛烈な皮肉がきいています。

”あいつ”の祖国となった人たちも、非常に象徴的でしたね。
古本屋の老夫婦が、「お前百まで、わしゃ九十九まで」とばかりに睦まじく寄り添うのを見て、
”あいつ”がワッと泣き出して、その場を走り去るシーンには、泣けました。
醜の御盾となってあたら若い命を散らさなければならない ”あいつ”には、
”老後”などないのですから。
空襲で半分焼けた女郎屋にいたセーラー服の少女は、まるで泥の中に咲く蓮の花でした。
まだうら若き大谷直子の、初々しく白い裸体がまぶしかったです。
砂丘の小さな兄弟も、かわいそうな小国民を熱演していましたね。

ラストは‥‥ 「強烈」のひとことです。

★鬼才・岡本喜八監督の世界★