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2007.07.10

絶望の果てで得たものは‥？★「７月４日に生まれて」

(2)

カテゴリ：独断と偏見に満ちた映画評

自らのベトナム戦争従軍体験を下地に、ベトナム戦争を批判した「プラトーン」 ('86年）を撮ったオリヴァー･ストーン監督が、
当時の大人気若手スター、トム・クルーズを主役に、
またもベトナム戦争を題材にした名作を撮り、２度めのオスカーを受賞しました。
それが、この作品です。

　7月4日に生まれてスペシャル・エディション

1946年、アメリカの独立記念日７月４日に、典型的な WASP （White､Anglo-Saxon､Puritan)の家庭に生まれたロン（トム・クルーズ）は、
幼い頃から両親の生きざまな言動などから、自然と愛国心を培い、
高校ではスポーツ少年として活躍、
卒業後はあこがれていた海兵隊に入隊し、やがてベトナム戦争に従軍した。
ところが銃弾が雨あられと飛び交う中、誤って農民の一家を殺してしまった上に、
自分も数発の銃弾を受け、下半身不随になってしまった。
野戦病院で動物並みの扱いを受けながらも、「俺は国のために戦った」という誇りを胸に、
車椅子で故郷に帰るロン。ところが‥‥
待ち受けていたのは、戦争反対に傾いた世論と、帰還兵への冷たいまなざしだった！

祖国のために自ら進んで入隊し、祖国のために戦って、あたら２０歳を過ぎたばかりで、生涯女が抱けない身体となったのに、
英雄どころか、人殺し、鬼悪魔扱い‥‥
「世の中は変わる」ということ、そして何より
「大量殺戮で英雄になった者はいない」ということに気づかなかったロンが、とても哀れでした。
酒に溺れ、荒れるロン。真っ黒なトンネルの中を手探りで歩くような生き地獄、絶望‥‥
しかし、深い深い絶望の果てに、ロンがひとすじの希望の光を見出す過程が、
観る人たちの涙を誘います。
あれほどベトナム戦争を肯定し、祖国のために命を投げ出そうと思っていたロンが、
車椅子を押しながら、反戦デモの列に加わり、
自らの戦争体験をつづった「７月４日に生まれて」という本を出版するのです。

ロンは英雄でもなければ、並外れた努力の人というわけでもなく、
頭脳もおそらく人並みの、どこにでもいるスポーツ少年。
戦争がなければ、おそらくスポーツ優待でどこかの大学に入り、
特に出世もしないけど、平穏な人生を送ったような人でしょう。
しかし、彼が普通の人間だからこそ、戦争の悲惨さや、
絶望の奥深くから懸命に這い上がろうとする様子が、
観る人たちにリアリティをもって、ひしひしと伝わるんじゃないでしょうか？

モイラが心の中で快哉をあげたのは、大がかりな反戦集会で、
負傷した元兵士が大勢の前で、もらった勲章をわしづかみにし、
「こんなものはクソだ！」と叫んで、投げ捨てる場面。
国に利用された者の憤りを、見事に表現していました。

しかし‥‥そんなベトナム戦争の苦い教訓を、アメリカはもう忘れたのでしょうかね。
今のイラクの状況をニュースで見て、つくづく思います。
厳然たる事実に基づいた作られた「７月４日に生まれて」を、
ブッシュ大統領は繰り返し観るべきじゃないかと思います。