★モイラの名画座★

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2007.07.11

元祖カルト映画！★「カリガリ博士」

(8)

カテゴリ：独断と偏見に満ちた映画評

２０世紀初頭、前衛絵画から生まれたドイツ表現主義 ‥‥
それを、当時はまだ新しい表現方法だった映画の世界に持ち込み、
これまでの劇映画に見られなかった斬新な傑作として花開いたのが、
1920年、ロベルト・ヴィーネ監督の「カリガリ博士」（ドイツ）です。

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若い男フランシスの回想形式で始まるこの作品‥‥
フランシスと友人アランは、村のカーニバルの見世物小屋で、
カリガリ博士という男が木箱に入れた眠り男チェザーレを見かけた。
どんな質問にも答えるというチェザーレに、アランがほんの軽い気持ちで、自分の寿命を尋ねると、
「短命だ。夜明けには死ぬ」
そして翌日の夜明け、アランはチェザーレの言葉通り殺されるのだ。
カリガリ博士とチェザーレに疑念を抱くフランシス。
しかし、話は思わぬ展開へ‥‥

見世物小屋、連続殺人鬼、精神病院という特異なモチーフに加えて、
歪んだ建物や部屋、天井、煙突、白と黒のコントラストを際立たせた幻想的な照明、チェザーレのどぎつい歌舞伎のようなメイク、
そして何より、観客の期待を裏切る話の展開と、あっと驚くラストのどんでん返し‥‥
従来の映画創りの手法をすべてぶち破った、画期的な傑作です。
カルト映画の元祖と言ってもいいでしょうね。
モイラは大学生の時に、名画座で観たのですが、
今観ても息を呑むような不気味な映像と、話の展開の意外性に、
これを観た当時の映画人たちは、さぞかし腰を抜かしたことと思います。

この傑作が日本で公開されたのは、ドイツでの公開から１年後の大正１０年。
横浜では「眠り男」、東京浅草では「カリガリ博士のキャビネット」という邦題で封切られ、
名弁士・徳川夢声の語りで、人気を得たそうです。
当時、明治大学の学生だったモイラの亡き祖父も、浅草の映画館で観て、
斬新な活動（昔の言葉）なのでびっくりしたと、言っていました。

溝口健二監督はこの作品に触発されて、「血と霊」を作り（興業的に失敗、フィルムも残っていず）、
衣笠貞之助監督もまた、精神病院を舞台にした「狂つた一頁」（昭和２年）というカルト傑作を作りました。
キューブリック監督の「時計じかけのオレンジ」の近未来のセットや、
手塚治虫の「火の鳥　未来篇」の歪んだ建物の絵なども、
「カリガリ博士」の影響が随所に感じられてなりません。

やはり、良い作品には古さというものを感じさせないのですね。
この映画、最初は「メトロポリス」のフリッツ・ラング監督が撮るはずだったのですが、
ラング監督のスケジュールがいっぱいで、ヴィーネ監督に白刃の矢がたったそうです。
ラング版の「カリガリ博士」というのも、観てみたかったですね。