★モイラの名画座★

< 新しい記事

新着記事一覧(全1143件)

過去の記事 >

2007.07.24

冤罪の恐怖★「真昼の暗黒」

(2)

カテゴリ：独断と偏見に満ちた映画評

係争中の強盗殺人事件を題材に、当時の警察、検察の横暴、
理不尽な判決、冤罪の恐怖を世に強く訴えかけた問題作「真昼の暗黒」 ('56年　現代ぷろだくしょん）‥‥

昭和26年冬、中国地方の某集落で、就寝中の老夫婦が殺害され、金を奪われる事件が発生。
現場の模様から、地元の警察は複数犯の仕業だと決めてかかり、
まず小島（松山照夫）という青年を逮捕した。
警察の脅しめいた尋問に、小島はあっさり自白し、単独犯だと言ったが、
警察は「お前の友だち４人も共犯だろう?!吐け！」と、暴力で小島をせめたてた。
警察の拷問と「単独犯なら問答無用で死刑だが、従犯なら死刑は免れる」という甘い囁きに、小島は遂に屈し、
兄貴分の植村（草薙幸二郎）が主犯で、
友人の青木（矢野宣）、宮崎、清水も犯行に加わったと、嘘の自白を‥‥！
ために植村たち４人は、まったくの無実の罪で逮捕され、警察で凄惨な拷問を受け、
主犯と決めつけられた植村には死刑、他の３人には無期懲役の判決が‥‥！

この映画は、昭和26年に山口県で起こった八海事件を題材としていると言うより、
「４人の被告人の犯行の供述を映像で再現したら、これほどまでに奇異で、疑問に満ちた犯行になる！」
と言うことを、世に問うたものです。
植村被告たちの供述の再現は、実におかしかった！
夜中に５人で走りながら、犯行の打ち合わせをしたり、
リレー式に凶器を回しながら老夫婦を殺害したり、
犯行後、１人が忍者のように空中を飛んで現場を去ったり‥‥
「ありえねーよ！」みたいなことばっかり。
そして高裁は、「ありえねー」判決を下すのです！
話は前後しますが、刑事たちの植村への戦前の特高を思わせるような拷問や、
刑事が裁判で平然と偽証する場面には、ぞ～っとしました。
裁判だけでなく、被告人となってしまった青年たちの家族の心情も、
丹念に描いていましたね。

シナリオは大巨匠伊丹万作の直弟子で、黒澤明、稲垣浩監督ともよくコンビを組んだ
名匠・橋本忍氏。
氏のシナリオはいくつも拝読したモイラでございますが、
この「真昼の暗黒」が、氏の最高傑作ではないかと思います。
監督は「米」「キクとイサム」などの今井正氏。
左幸子、内藤武敏、加藤嘉、飯田蝶子、北林谷栄、芦田伸介、山村聡、殿山泰司といった
いずれも息の長い演技派が数多く出演しているのが、またすごい！
DVD化はまだされておりません。こういう社会派の名作こそ、DVD化してほしいものです。

★橋本忍＆今井正★