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2007.07.25

題名通りです‥‥★「果しなき欲望」

(2)

カテゴリ：独断と偏見に満ちた映画評

「自分は生涯、蛆虫を描いてゆく！」と、かつての師・小津安二郎、野田高梧に宣言し、
殺人鬼や慾ボケ、売春婦など、社会のはずれ者を好んで主人公に仕立てた今村昌平監督。

今村昌平の世界増補版

そのイマヘイが、おぞましくも滑稽な欲望の権化のような蛆虫どもを、
ブラック・コメディ仕立てに描いた傑作が、'58年の「果しなき欲望」です。

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夏。とある駅のホームに、胸に星のマークをつけた５人の男女が集まった。
薬剤師の中田（西村晃）、軍医の元妻と名乗る志麻（渡辺美佐子）、やくざの山本（加藤武）、中華料理店主の大沼（殿山泰司）、教師の沢井（小沢昭一）‥‥
互いに顔を知らぬ彼らは、集まるのは４人のはずなのにと訝りながらも、
「仕事」を始めていった。
その「仕事」とは、終戦の日に志麻の内縁の夫だった軍医が、
防空壕に埋めた時価６千万円のモルヒネを、掘り出すこと。
最初は互いに協力しあっていた５人だったが、「仕事」のために借りた家の家主の息子・悟（長門裕之）が仲間に加わったり、
色っぽい志麻をめぐって男たちが対立したり‥‥
果てしなく膨れ上がる金銭欲、色欲は、やがて醜悪にして滑稽な「食い合い」へと発展するのだった‥‥！

西村晃、渡辺美佐子、小沢昭一、加藤武、殿山泰司、芦田伸介（刑事役）と、
ひとくせもふたくせもあるキャストを揃えただけでもすごいのに、
その彼らがモルヒネをめぐって、殺し合いを始めるという設定がまたすごいです！
「人間、欲望の行き着く果ては、この有様か‥‥」と、観ながら思わず口を開けてしまいました。
欲にとりつかれた人間の恐ろしさ、あさましさ、滑稽さを、
ここまでシニカルに描いたブラック･コメディは、そうはないでしょう。
これがハリウッド作品ならば、「オーシャンと１１人の仲間」のように、
「虻蜂とらずだったけど、犠牲はそう多くなかった」といった結末になるのでしょうが、
どっこいこの作品の結末は、厳しいものです。
それでもほとんど後味の悪さがなく、見事なエンタテイメントに仕上げています。
小沢昭一がドラム缶の下敷きになってあっけなく死ぬのが、
「欲ボケの末路」を象徴的に描いていて、眼を見張りました。
これほど題名通りの映画も、珍しいかもしれません。

★今村昌平ワールド★