KJESSのブログ

2024.11.17
XML
カテゴリ: カテゴリ未分類

大田雅彦は、都会の喧騒に揉まれながらも、日々仕事に追われるごく普通のサラリーマンだった。年末が近づき、忙しさはさらに増していく。そんな中、ふと目に留まったのは、会社のロビーに設置された「お歳暮コーナー」の案内板だった。無数に並ぶギフトカタログの山を横目に、雅彦は少しだけ足を止めた。

「お歳暮か……」と雅彦は呟く。自分が子どもの頃、実家でもお歳暮のやりとりが盛んだったことを思い出した。しかし、それは遥か昔の話だ。今ではお歳暮どころか、実家の母ともまともに話すことが減っている。

幼い頃、家の郵便受けにはよく段ボール箱が届いた。箱の中には、ビールの詰め合わせや高級そうな調味料セットが入っていて、母がそれを嬉しそうに並べていた光景が、妙に鮮明に蘇る。そして、それとともに、ある小さな手紙の記憶もよみがえった。

「雅彦、これ、読んでみなさい」

母が箱から取り出した手紙は、綺麗な便箋に丁寧な字で書かれていた。「この一年、お世話になりました。どうぞ良いお年をお迎えください。」たったそれだけの文章だったが、その裏には贈り主の温かい気持ちが込められていることを、幼いながらも感じ取った記憶がある。

雅彦はふと、最近の自分を振り返った。誰かに感謝の気持ちをきちんと伝えたのはいつだっただろうか?仕事での人間関係はどこか事務的になり、家族や友人との距離も気づかぬうちに遠くなっていた気がする。

その日は結局、お歳暮コーナーに近づくこともなく通り過ぎた。しかし、その晩、自宅のソファでくつろぎながら、実家の母に電話をしてみようかとふと思い立った。

「もしもし、雅彦?どうしたの、珍しいじゃない」

「いや、ちょっと……元気かなと思って」

母の声はいつもと変わらないが、どこか嬉しそうに聞こえた。それだけで雅彦の心も温かくなる。

「そういえば、お歳暮とか、まだ送ったりしてるの?」

母は少し驚いたように笑った。「最近は少なくなったけどね。でも、田舎の友達や親戚には、年末の挨拶代わりに少しだけ送ってるよ。」

母の何気ない言葉が、雅彦の胸に響いた。年末に贈るお歳暮は、ただの形式的な贈り物ではない。それは「感謝」を形にする習慣なのだ。そして、相手に「忘れていないよ」という思いを伝える、ささやかな手段でもある。

雅彦は電話を切った後、スマホでお歳暮のカタログを検索してみた。久しぶりに何か贈ってみようか。そんな思いが、静かに芽生えていた。






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2024.11.17 07:26:38
コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: