今だから申し訳なかったこと 南風一
まだ父も母も若くて
健在だった頃のこと
父が家に帰ってくるのはいつも遅かった
祖父の家に寄って農業もやっていたから
いつも家に帰ってくるわけではなかった
家に帰って来た時は
一人で冷えた晩飯を食べて
最後に風呂に入っていた
ある日私は父が脱いだ上着のポケットに
財布があることを知って
100円硬貨を盗ることを思い付いた
父は忙しかったのか
私が100円硬貨を盗んだことには気づかなかった
暫くしてある日
父が家に帰ってくると
母に向かって「俺の財布からお金を盗っただろう」と怒鳴っていた
母は「何を言ってるの。私が泥棒とでも言うの?」と怒鳴り返していた
私は父にも母にも申し訳ないことをしたと思った
二人が悪いのではないのに二人は喧嘩をしていた
それ以来私は父の財布から100円硬貨を盗るのを止めた
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