大前提として、「自動車産業は20世紀の産業中の産業である」とはピーター・ドラッガー氏の言葉であるが、この状況は21世紀に入り、リーマンショックを経た今でも、多くの国で変わっていない。GDPおよび雇用創出の観点から見て、自動車産業は各先進国においても、いまだに一定以上の地位を占めている。中でもドイツにおいては、自動車関連産業の比率はGDPの5.5%、輸出額の16.2%を占め、GDPにおける占有率が10年前に比べて増加するなど、その存在感はさらに拡大している。
一方、同じ欧州でも周辺のイタリアやフランスとなると、かなり様相が異なる。特に10年前と比較すると、自動車産業の存在感がいずれの視点でも低下傾向にあることが明確に分かる。これはよく言われるように、欧州連合(EU)域内での経済統合と東方進出が進む中で、EU域内での競争、すなわち「ドイツ一人勝ち」のあおりを受けているのは間違いないだろう。
また米国においても、リーマンショック後のGMやChryslerの破たんなどを経て、他国に比べて元々低かったGDPや輸出に占める自動車産業の比率はさらに低下傾向にある。つまり、米国における(既存の)自動車産業は、ますます相対的地位が低下しているのだ。
日本、輸出貢献度はドイツ以上
翻って、日本はどうか。ドイツと比べると自動車製造業のGDP貢献度は低い。それは、「自動車一強」といわれながらも、製造業という範疇での産業としての裾野の広さが要因であろう。ただし、自動車産業の輸出への貢献度はドイツ以上である。むしろ今後は、人口減少に伴って自動車製造業と同レベルのGDP規模にある、自動車を使用する産業(=運輸、物流)における労働力不足が本質的な課題となってくる。
もちろん、各国ともこのような「自動車関連産業依存」と言うべき産業構造を看過しているわけではない。その筆頭は米国であり、過去から通信・IT(情報技術)、そしてバイオテクノロジーと次々に技術をテコにしながら、新産業を生み出してきた。
しかしながら、1990年代に勃興した従来型のIT関連産業が、30年近くを経て成熟期を迎えている。米国における主要なIT企業の売上・利益成長の軌跡を見ると、ルイス・ガースナー元CEO(最高経営責任者)による大変革で一度は復活したIBMも、再び減収・減益に見舞われている。「Wintel」としてパソコンビジネスで一時代を築いたMicrosoft(マイクロソフト)、Intel(インテル)、さらにDell(デル)もビジネスモデルの変革に取り組んでいるが、その成果が上がっているとは言い難い。
スマートフォン(スマホ)とタブレットの市場を創出することでパソコン市場を衰退に追いやったApple(アップル)でさえも、直近では利益の伸びが止まりつつある。当然、米国としてもこのようなタイミングがいずれ訪れることを見越して、IT産業とほぼ同時期から次世代の基盤技術としてバイオテクノロジーに多大な先行投資を行ってきた。 その結果、産業単位での利益規模の観点から見ると、既に自動車産業をはるかにしのぐ規模に成長しつつある。
このような基幹産業交代を加速させるため、「自動車産業や金融産業を含む従来型の産業とITの融合によって、自動運転やフィンテックといった新たなビジネスチャンスを作り出す」というのが、米国の大きな国家戦略となりつつある。そのための先行投資は、高収益のまま成長が鈍化することで現状はキャシュリッチになっているIT業界からの民間投資によって賄っていく。自動車の3大技術トレンドと産業政策
マクロな視点から見た各国の産業構造全体に占める自動車産業の位置づけに加え、よりミクロな視点でも、各自動車メーカーの戦略に対する各国の産業政策の影響は大きい。一つ目の「パワートレインの進化」という観点で言えば、電気自動車(EV)に対する中国の注力度合いが高まっている。単に純輸入材である石油の輸入量を抑えて貿易収支を改善したり、深刻度を増している都市部の大気汚染を緩和するだけでなく、EVのコアである電池やその素材供給の観点で、上流の電池産業や素材産業を育成したいという思惑を抱いている(ただし、電池に関しては自社メーカーの技術力の限界から、少なくとも短期的には韓国勢に頼らざるを得なくなっている)。
既存の自動車産業の集積がほとんどない台湾が、二輪車も含めたパーソナルモビリティとしてのEVへの傾注をより高めているのも、既存のエレクトロニクス産業の産業基盤を転用し、成熟化が進みつつある自国産業を再成長に導くためのものと理解すればわかりやすい。
韓国については国家単位でみれば、既存の内燃機関ベースのクルマがエレクトロニクス製品と並ぶ輸出財になっている以上、産業政策レベルでのシフトはまだそれほど目立っていない。しかし、韓国のエレクトロニクス産業の両雄であるSamsung Electronics(サムスン電子)とLG Electronics(LG電子)は、ポートフォリオ変革で先行するパナソニックなど日本の総合電機メーカーを再び手本として、電池やLED(発行ダイオード)といった電子デバイスから着々と車載用途へのポートフォリオシフトを進めている。
燃料電池車(FCV)については、車両自体の要素技術よりも、燃料としての水素そのもの、特に短期・中期的に水素の最も安価な供給手段としての副生水素が調達可能な国・地域から普及が進む。これも、エネルギー政策を含めた産業政策的な視点から必然性が高い。
車両の軽量化であれば、軽量化素材として何に主眼を置くかという観点でみると、より分かりやすい。「鉄は国家なり」との格言の通り、依然として鉄鋼メーカーが高い技術力と存在感を維持し続けている日本では、高張力鋼板を徹底的に使いこなすというアプローチが主流であるのに対して、相対的に化学メーカーが強いドイツでは従来から樹脂の利用が進んでいた。近年、さらにCFRP(炭素繊維強化樹脂)も含めた複数の素材をマルチマテリアルとして使いこなす動きが進んでいる。
米国の素材産業のなかでは、相対的にアルミメーカーがグローバル競争力を持っている。その結果としてGMやFord Motorなどが、アルミ合金の採用による軽量化のアプローチを大胆にとろうとしている。
自動運転については、自動車メーカーよりもIT企業に主導権を握らせようとする米国の動きがある。攻める米国に対して守りに回らざるを得ない他の国々がそう簡単に自国の交通データを米国企業に渡すだろうか。ましてや、米国と軍事的な対立関係にある国であればなおさらだ。(中国においてはGoogle(グーグル)の検索事業などでさえ、自由にビジネスができていないのが現状)。
日米で対照的な投資循環
このようにして各国が、産業政策の観点から様々な強みや制約条件を踏まえて自動車産業の競争力を高めようとしている。このなかで、マクロなポジショニングから見た日本の競争優位はどこにあるのか。一つは、月並みではあるが自動車産業への相対的依存度が必ずしも高くなく、裾野が広い産業構造にある点だ。技術基盤の面では、すべて持っていることで、その融合によるイノベーションは本来であれば極めて起こしやすい産業構造にある。
一方で最大の課題は、利益規模で見ると自動車産業以上の稼ぎ頭がいないという点である。それ故、自動車産業自身が内部的に利益を再投資することが求められ、現状では歴史的にみても高い利益水準の下で「自律的な投資循環」が機能している。
これに対して、特に米国では「自動車産業以上に稼ぐ力を保持するIT産業のような外部の投資家が自動車産業の成長に投資をする」という、自動車業界に閉じない投資循環サイクルが構築できている。
そのような外部の産業がないドイツでは、産官学が連携することでひと回り大きな投資循環サイクルを創ることを目指している。このようなマクロな国家間競争において、日本の自動車産業がどのように戦っていくのかについて考慮しておく必要があるだろう。
出典: http://www.nikkei.com/article/DGXMZO98440360V10C16A3000000/
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