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February 24, 2012
『セーヌの川辺』(評価★★★☆☆)
カテゴリ:
エッセイ
著者:池澤夏樹
出版:集英社 / 2008年 / 単行本
ジャンル:エッセイ
作家の池澤氏がフランスに移り住んでから書かれたエッセイ集の、『異国の客』(2005)に次ぐ2冊目。
前作を読まずにこちらを手にしましたが、これだけでも十分楽しめます。
政治、という意味での背景は、シラク前大統領からサルコジ大統領に代わるころになります。
<目次>
聖マルタン、愛知万博、植民地の料理、車を燃やす
クリスマス、EUと多言語社会、コープランド、ブルギニョン
街頭民主主義、社会サービスの質
スコットランドの縁ふたつ
ピカソの見かた、書くための出発
マテラッツィが言ったこと
川辺の公園、共和国、独立戦争
冬の到来、エッフェル塔、敗者の歴史
カルメン、モンブラン、南部高速鉄道
ケ・ブランリーとディズニーランド
ラング・ドッグの語学学校、サルコジ、ソミエール
フランスの景観、アズールとアスマール
修理するアフリカ人、翻訳文化、フランスの変化
ニ十歳の頃、町の事件、異国としての日本
フィレンツェ、ドゥオーモ、工学的関心
セーヌ川を船で行く あるいは内水面の文化史
あとがき
気になった個所のご紹介です。
→これ以上引用しませんが、このくだりは大変面白い。
「(前略)イスラム教とキリスト教の違いはやはり大きな障害なのだ。なぜならばこの二つはよく似ているくせに決定的に違うから。どちらも契約の宗教であり、一個の神を信じ、その神が微妙に、しかし絶対的に違う。東アジアの人たちとはまったく違う。そういう人たちが今や人口の一割近くいる。」(26頁)
→もちろん、フランスのお話。契約の宗教というのは、気づきにくいが大事なところ。
「スイス人にとって母国語とは何か?憲法で認められた先の四つの言葉すべてを指すのか?大事なのは人生の最初に習得し、日常最も多く使っている言葉、すなわち母語である。」(35頁)
「スイスに、あるいはヨーロッパにのどこかにいると、言語は一つではないということを忘れる時がない。母語を異にする人と話をする機会は多いし、それは可能であり、意味が深いということを日々の生活の中でいやでも教えられるのがヨーロッパの言語生活ではないか。」(37頁)
→中国という大きな国でも多くの言語が存在しますが、共通語はお上から押し付けられたもの、以外の何物でもないんですね。
「森は多神教的で、砂漠だけが一神教を生み出せたのではないかと考えてみる。ここでは森そのものに添わなければ生きていけない。」(55頁)
→「ここ」はフィンランド。
「では、大衆による街頭民主主義は信頼できるか?(中略) 大衆は感情に流れて誤るかもしれないが、エリートもまた別の理由で錯誤を犯す。そして、政策の対象になるのはやはり民衆の方なのだ。」(68頁)
→フランスのデモとストライキに関する考察。
「労働者を正規の社員として採用せず、多くの従業員を臨時雇いのまま不安定な雇用状態に留めるというのは日本の多くの企業が取っている方法である。そこには二年に限るという歯止めも、二十六歳未満という制限もない。要するに日本ではすでにCPEなるものが広く成立してしまっている。」(73頁)
→CPE:初期雇用契約とは、フランスにおいて2006年に立法化された若者を対象とした雇用形態をいう。(Wikipediaより)
「日本では社会とは与えられたもの、使いこなすものであって、自分で組み立てるものではない。その点では家電製品に似ている。マニュアルがあればいいので、誰もそのために電気工学を学ぼうとしない。また、そこにはプラグを抜くという選択肢はないかの如くだ。」(77頁)
「イギリスという国がヨーロッパの隅にある島国でありながら、それを微妙にねじれた形で自認しながら、それでもむしろアメリカ合衆国やカナダの方に親近感を持っている理由の第一は言葉であり、それから血統なのだろう。」(87頁)
「ゴーギャンならば一点の絵を何時間もかけて見ることに意味がある。絵の中に居住するという感じ。しかしピカソの前では時間を止めてはいけない。つまりピカソという画家はミュゼ的ではないのだ。」(93頁)
→ミュゼ:美術館,博物館
「顔というのはそれ自体が濃縮された意味の図像である。われわれは何よりも人の顔を読むことに修練を積む。猟師が獲物の足跡を読むように。」(167頁)
「(こういう用語がすんなり使えることからもわかるとおり)、ディズニーランドの基礎にある神学は実は工学なのだ。」(176頁)
「公益とは社会の益だ。前提という社会の概念がヨーロッパと日本では違うような気がする。日頃から頻繁に使っている言葉であり、もうすっかり定着したかのようだけれども、江戸期まで遡ってみれば日本には「社会」という言葉はなかった。当時あったのは「世間」だ。」(199頁)
「日本語で「さようなら」と言う。語源に戻って考えれば「もしもそうならば」という意味だ。「もしも状況がわれわれにとって別れを強いるならば、しかたがないからお別れしましょう」だろうか。」(217頁)
ぼく自身が日本語というものを考えるとき、やはり作家の片岡義男氏の影響が大きい。アプローチは異なっていても、池澤氏の言語に対する考え方には、大いに共感できる。
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最終更新日 February 24, 2012 09:58:33 PM
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