Laub🍃

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2011.03.27
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「いいか、何かあったら家に言えよ。天下の”家”で、頭の息子が馬鹿にされるなんざ、あっちゃならねえんだ」

 幼い頃から、こう言われていた。
 だから学校で何かされたら締め上げてもらうのがふつうだった。
 家で散々に下の扱いをされていただけに、それくらいは楽してもいいだろと思ってた。
 迅兄みたいに喧嘩で強いわけでもない。
 臨姉みたいに人を魅了する力もない。

 だから。

「俺はっ、俺がっ、この家を支えるんだ!」

 ちっせえ頃から特権階級、ずっと楽してきたレールの上。


「では狼頭、お前はあいつらを倒して来い。出来るわけがないがな」
「……で、できるっつーの!」

 どうしてこうなってるんだ。
 親父、俺等互いに大嫌いだけど、でもこうして育てた手前最後まで俺を見捨てない筈だろ?

「…そうか。ではこの二人をお付きに」
「そんなんいらねえよ!!」

 目の前の奴らの顔も見ずに言う。
 糸袰の苗字でついてくるやつなんて要らねえ。
 しかもこいつら、確か仕事で失敗を重ねてるやつらだろ。
 ババじゃねえか。

「お前だけでは無理…」


 それでも噛み付く。震える手を、伝家の宝刀に伸ばす。

「お前……それを離せ」
「これさえ…これさえあれば……」

 俺だって糸袰の血が流れてる。だからこれを活かす力はある筈なんだ。


「……!」

 瞬間、世界が光に包まれた気がした。





 伝家の宝刀は、予想以上に不思議な力を持っていたようだ。
 どこへともなく消えた裏切り者達の居場所に見事に運んでくれる、働き者だった。


「あーーーーーーーーーーーーーーーーめんどくせえ」

 だから気が付いたらこんな声が出ているのは、主失格だ。

 啖呵を切った手前、そして曲がりなりにも部下を背負っている手前、手土産なしじゃ帰れねえだろと刀は嗤う。
 かたかたと。

 だから、それがうずく度に血を吸わせてきた。
 幸い相手には困らない。俺達が流されてきたところは沢山の化け物が湧くでっかい水の塊だったから。

「坊ちゃん、宝刀は収まりましたか」
「…ああ。でっかい魚でも、ヒトに似てるんなら満足してくれるみてえだな」
「……そうですね」

 俺に話しかけてきているのは、あの時押し付けられた部下の一人、頼。
 俺の身辺警護として、常にどちらかはついてくることになってる。
 うざってえことこの上ないが、役に立つのもまた事実。

「さっさと終わらせて、さっさと帰りましょう」
「……ここをもう少し楽しんでもいいかもな」
「はい?」

 はいって、文字通りだよ。

「あいつらがこっちの世界に来たのはもう何百年何千年と昔らしいし、俺達が多少ここで時間を食ったとしても元の世界では多分一分も経ってねえんじゃねえか」

「だとしても、俺はそこまでこの世界を楽しめませんけどね」
「……」
「坊ちゃんは気になる娼婦と遊びたいだけでしょう」
「!」

 何故ばれた。

 そんな顔で頼を見ると、呆れた顔でやれやれといった口調で諭される。うざってえ。

「そんな事やってたらますます帰れなくなりますよ」
「少しは補給も必要だろが」
「度が過ぎると、と言っているんです」

 あーうざってええ。
 凍月はまだか。こいつを黙らせろ。

 俺達は化け物退治のバイトをしていた。血を吸う伝家の宝刀も黙らせられるし、一石二鳥ってやつだ。
 バイトなんざやるのは初めてだったから正直どうすりゃいいのか分からなかったが、凍月がどうにか手配してくれていた。
 凍月は今日は用事があるとかで、少し遅れてくると言っていた。
 その前に作業が終わったからこうして無駄話をしてるわけだが。

 今日は割と早く刀が黙ってくれたから、3人でまたあの人の所にでも行ってみるか。
 勿論俺以外の2人には適当な女でもつけて。

to be continued... ?





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最終更新日  2017.04.26 06:58:28
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