Laub🍃

Laub🍃

2011.05.24
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制限時間はとっくに過ぎた。
外で、恐らく同僚の凍月と上司の息子、狼頭を待たせている。

「私は、私が好きな人が好きなものが大嫌いです」

にもかかわらず、頼は困惑して固まっていた。

「私は、私を救ってくれたものだけを信じられます。
 両親の信じるそれは、到底私を救ってくれなかったばかりか、私から両親を奪いました」

さきほどまで新しい世界に戸惑う己のことを理解しようと、そして導こうとしてくれていた女性ーリニア=モタカが、今目の前で泣き崩れている。

「私は、ただ、母の反応を見たかっただけなんです。
 それが、そんなに、母に怒られるなんて、思っていなかったんです」


彼の否定の感情は、彼の蔑む相手に。
彼の承継の感情は、彼の憧憬する相手に。

だから、蔑むべき相手に憧憬を抱くー少なくとも、そうしているように見える彼女に、言うべき言葉が見付からなかった。

「私の学校は、宮殿と神殿の合間にありました」

すん、と落ち着いたように見えてぼろぼろと涙をこぼし、声だけは死んだ状態で彼女は語り続ける。頼には、ただ曖昧に頷いて聞いていることしかできなかった。





「だから、双方の子供たちが入り混じっていました。
 ある時、音楽の授業があったんです。宮殿出の先生は、国歌を何の疑問もなく歌うことを教えました。
 だけど、私には親の言いつけがあったから、歌わないでむっすりとしていたんです。
 家にあった本にも、神殿出の人が宮殿出の人に媚びない為に歌わなかったという話がありました」

それは、幼い頃の彼女にとっての英雄だったのだろうか。


 私も内心そうだろうなと思っていました。かっこよかったですよ、神殿出の人の漫画は。使命感に燃える両親の姿も。だけど、その理由については納得できず、周囲の子が「国歌は歌うもの」と同じように「国歌は歌うべきでないもの」と思いこんでいたのです。」

「だから、君にはうまく親の言っていた理由を説明できなかったのですか」

「…そうですね。それに、親が普段、言語化した私の言葉をすべて屁理屈と切って捨てていたこともありました。……親の、そうした喜んで多用する言葉を繰り返したら、頭の良い子と褒められていたこともあります。私は、出来の悪い操り人形に過ぎませんでした」

己の境遇を思い返す。家に完全服従する、出来の悪い上司の子供の面倒をも見る己を。
上のコピーならば、もしくは劣化コピーならば、どうして俺である必要があるのだろう。



「でも、私は本当は宮殿も神殿も歌もどうでもよかったんです。
 一緒に歌うのも楽しかったけど、でも、家の人の為に頑張ったんです。恥ずかしかったけど。
 でも、同時に、禁じられていることってやりたくなるじゃないですか」

「そうですね」

そうだ。その気持ちはよくわかる。そうしていつも、やってしまってから後悔する。

「生物の遺伝だって、ずっと一緒だったら意味がありません。
 ところどころで親の形態のコピーをやめようと試みるから、
 だからこそ失敗するリスクがあっても、世界に挑んでみようとするんでしょうね」

そう言うと彼女は我が意を得たりとばかりに頷く。

「……そうだったら、いいですね。私は、私自身があの時悪魔に思えました」

だとしても、小悪魔だろう。そうフォローする間もなく、彼女は思いつめた瞳で続ける。

「でも、泣いて喚いて母が私をそこから真冬の外にー風呂場だったのですがー叩き出した時、同時にその狂乱っぷりと現実がかみ合っていないことにも気付いたんです」

「目の前で人が死んだり、家が燃えたりしているならともかく、と?」

「…そうですね。
私が、うっかり禁止されている言葉を同窓生にならって使ってしまった時、刃物が家にないからとひたすら私の教科書を、あの固い紙を使って手首を切りはじめた父にも、似た思いを抱きました。
私には、トラウマがよくわからなかったんです。だから、それを抱く人に憧れてさえ居ました。
今ではそう良いものではないと知っていますが、それでも目の前の現実よりも優先できるものを持つ揺るぎない人に憧れたのです。」

もはや、どういっていいか分からない。
だが口は勝手に動いた。

「振り回される側としてはたまんないですけどね」

おっと、しまった。母親に振り回された彼女のフォローとして言ったつもりが、母娘ともども貶してしまった。恐る恐る隣に座る彼女を見やると、彼女は少し驚いたようにこちらを見ていたけれど、やがて少し笑った。

「本当に、そうですねえ…」

「だから、私も、こうやって振り回す側に、なりたくなかったんです。散々、散々母や父の見えない背景に振り回されましたから。思いやる暇もないほどに」

人を思いやれる人になりたかったのだと。
国の将来を憂える人になりたかったのだと。
何か本当に作りたいものを造りたかったのだと。
残せるものが欲しかったのだと。

「なのに、親から習ったことで外で役立ったことは1つもなく」

「そして、外から学んだことで親に役立ったことは1つもありませんでした」

彼女はそう言って、突っ伏した。

ベッドに座る俺達の前、恰好つけて頼んだコーヒーはとっくに湯気を止めていた。

「世界なんて、滅びていい。
 人なんて、ぶち殺したい。
 あの歌を、歌いたいの」

「……歌えば、いいじゃないか」

そういうと、彼女の顔はにわかに明るく、童女のそれになった。

「……♪」

歌い慣れていないらしいそれはひどく純粋で、国の存亡も家族の愛も目の前の俺の存在さえ含まない、ただただ幼い子供が己の喉を確かめるために、笑いながら泣きながら歌っているだけだった。

俺は、いつにか、ぱちぱちと手をたたいていた。
そうして童女のような彼女の頬を拭って、頭を撫でると彼女はまた泣くものだから、困惑した。

「随分長かったな」
そう言ってくる坊ちゃんの追求をかわすのに、苦労した。




後で、知ったことだが。
宮殿ー彼女の出身、浜国サンタフォルカの成立に貢献した一人、マヌカとか言う女がよく歌っていた歌が、これだったらしい。
しかし、サンタフォルカの中央教会に安置されている彼女が生き返ったら嘆くだろうにサンタフォルカは現在宮殿派と神殿派及び廃殿派で深刻な対立に陥っているらしい。
富と複数の人数の居る所、必ず差別と対立と分裂ありだ。
そうして、今や平和と繁栄を願った彼女の歌は、宮殿の象徴となってしまっている。

「歌に罪はないのにな」

「好きにも、罪はないのに」

ならば、俺はどうすればいい。
何もかもが分からないと、今更何を大事にしようとしても何もできないのだと嘆く彼女にどうすればいい。誰の正義も信じられないと憤る彼女に、何が出来る。

彼女に対しての接し方の正解は、なんだ。

「……坊ちゃん。坊ちゃんにとっての正解は、なんですか」
「あぁ?やられたらやり返すことだろうがよ。俺等は、だからあいつらをぶっ殺さなきゃいけないんだ。家の為に」
「…そう。そうですよね」

坊ちゃんを珍しく見直した。
そうだ。
やられっぱなしじゃ、駄目だ。
ほうりっぱなしでも、駄目だ。

ならば。

「浜の国を、滅ぼしましょう」
「えっ」

ぎょっとした顔のぼっちゃんと凍月に、微笑む。
彼女はきっと俺がやったと知ったら泣いて、更に何も話してくれなくなるだろうから、秘密裏に。

「お前がそんなこと言うなんてな……ま、いいけど。そうしたらあいつらも出てくるかもしれないし…」
「ちょ、ちょっとお二人…」

にこにこ笑いながら止めようとする凍月のどこかカバに似た顔に、同様に笑って返す。
幸せに育った奴には分からないだろうと。
そうすると、凍月は目を反らす。
俺も倣って、目を反らした。


……これは、あなたの為ではありません、リニア。
あなたに押し付けるものでもありません。
そもそもあなたは、何も望んで等いないのですから。

俺が、世界に、モノ見せたいのです。
新しい世界を、…綺麗になって、今度こそ一から信じられる世界を、建て直したいのです。



to be continued... ?


***************
お借りしました。
『世界に存在する46の恋愛論』透徹(旧9円ラフォーレ)様

あ あたしきたならしいをんなです
い 良い子悪い子愛しい子
う ううん、大嫌い
え 偉くなんかないよただ好きなだけ
お 大馬鹿者はおまえだよ、この嘘吐き
か 悲しみも怒りも苦しみも全部覚えてる
き きみが泣いたら世界の壊れる音がした
く 首を吊って死ねたなら最期に残るのは今度こそお前への憎しみね
け 結論結局結末、どれでもいいけどつまりはそういう結果論
こ 幸福を降伏するアンドロメダ
さ 三段重ねに積み上げて呑み干す欲情
し しんでしまえよおまえなんか
す 捨て去った狂愛の在りか
せ セックスで愛は紡がれるなんてそんなの妄信
そ それじゃあさよならといこうじゃないか
た 退屈しのぎにご覧遊ばせ
ち ちょうだいちょうだい、あなたをまるごとくださいな
つ つかぬことをお聞きしますがあなたそれは恋ですよ
て ティラミスを噛み砕く午後3時
と 届けばぐちゃぐちゃに砕けてしまうから言えずにいる秘密
な 何て愚かな私のリリー、殺されることもわかっていたろう?
に ニーソックスを御所望ですか主人
ぬ 濡れる紅いミニスカート
ね 熱帯魚が泳ぐ海で溺死しようか
の 望めるならば貴方が欲しい
は 這いつくばったら崇め称えろ
ひ 一目惚れ?違うこれは運命だ
ふ ふしだら女ときまじめ男は路地裏で愛を語る
へ 平成に対する新たな平和条約を結ぶために必要な愛の三原則を唱えます
ほ 抱擁に飽き足りた少女の暴動
ま 真似だけならとびきりにお上手よカメレオンみ みずぼらしい少女に魔法をおひとつ
む むかしむかしのある時代に愛し合うはずだったある哀れな少年少女の話をしよう
め 滅茶苦茶で何もかもがぐしゃくじゃ
も もう一度逢えたら愛して欲しい
や 破かれた恋文(には続きがありました)
ゆ 指先に触れて爪先に触れて私はあなたの全てで染まる
よ 世の中にはツンデレというものが存在するらしい
ら ラブマシーン開発計画
り リーダー、恋愛フラグが立ちません
る ルビーなんか灰になって消えちまえ
れ 恋愛が楽しいと最初に唱えた大嘘吐きなど死ねばいい
ろ ロマンよりはリアルがお好き>名声よりも名前を頂戴
わ 惑星が朝を迎える頃にお前を愛す
を ヲトメの純真殺してみなさい
ん んじゃ、此れでフィナーレな





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最終更新日  2017.04.22 00:44:55
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