Laub🍃

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2011.05.29
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カテゴリ: .1次題
ヨーゼフは絵を描くことが好きだった。

病床の姉、マリーが褒めてくれるから、喩えどんなにおかしいと言われる色使いでも、ヨーゼフは自分の描きたいものを貫けた。

そしてヨーゼフは評価されはじめた。

ヨーゼフはマリーのお蔭だと思った。

素晴らしい絵を描く自らと、そんな自分を褒めて伸ばしてくれたマリーは素晴らしい力を神から授かったのだと思っていた。



だがしかし成長し始めたヨーゼフはあることに気が付いた。マリーは盲目だった。
ずっと誤魔化し続けていたが、マリーはヨーゼフの絵を見ることが出来ず、全てヨーゼフの言葉、説明から反応を慎重に返していたのだ。

マリーの褒める言葉はマリーのやさしさだった。


ヨーゼフは単純ゆえに、大きくなるまでそのことに気が付かなかった。



喩えどんなに陳腐でへたくそで将来性がなくとも、マリーは褒めていただろう。



ヨーゼフは絶望した。

これまで背中に背負っていた筈の万能の翼がぐずぐずに溶けて骨になってしまった。



マリーは急に距離を置こうとするヨーゼフのことが分からなくなった。

いつものように絵を見せてほしいとねだったが、ヨーゼフはそれを断った。
マリーには、ヨーゼフを支える、それ以外の価値が自分にあるとは思えなかった。

ヨーゼフは、命の灯少ないマリーに、嘘を重ねてほしくなかった。




ヨーゼフの作る、お世辞にも上手いと言えないスープだけが、マリーに残された温もりだった。



そんなある日マリーは息絶えた。

マリーは身体を失って初めて、目が見えるようになった。

天に使いとともに登っていくなかマリーは、部屋中に、マリーの為だけに描かれた大小さまざまな色とりどりの絵を見た。



その中でひときわ大きく咲く花。


真っ赤な花。

ヨーゼフだった。


ヨーゼフが身体を切って、自分の命を使って、マリーの為に絵を描いていた。


顔を歪めて泣くマリーのもとに、ヨーゼフが現れた。



綺麗な絵だとマリーは褒めた。本心からの言葉だった。

ヨーゼフは花が咲いたように笑った。
つられてマリーも、蕾が綻ぶように笑った。





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最終更新日  2018.03.02 01:44:11
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