Laub🍃

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2011.06.08
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*最近どんどん暑くなる。
「小型扇風機みたいな異能ないかなぁ、持ち運べるの~」
「みみっちいわね願い事が」

 鬼のような軍の小隊から抜けて、私は不思議な世界に招待されていた。

『魔王から勇者へのスパイとは仮の姿。本当の目的は、異世界からの人の勧誘よ。…ナグモ、あなたのように、こちらの世界にこそ居るべきな人の、ね』

 金色の目と白い牙を光らせて、バレル=マクト…もといムシュマッヘはそう言った。
 その時、私の目と耳は彼女を通り越して先輩との会話を思い出していた。
 もう、何年前のことだろうか。

『先輩行かないでください』

『そんなぁ、先輩が居なくなったら誰が夜中のトイレに付き合ってくれるんですか!?』
『知るか!!!』
『じゃあ付いていきます』
『そんな理由でついてくんな!つーかそろそろ一人で行けるようになれよ!?』

 ほっとけないのは先輩だった。

 あんなの、ただのこじつけだった。
 正直言っていっつもいっつも要領悪く何にでもぶつかっていく先輩がほっとけないだけだった。

 だけど、私がちょっと別行動をしている間に、先輩はとろんとした顔で新入りのお姉さんの膝の上で子供返りしていた。

 あんなの、私の知ってる先輩じゃない。厳しいけどやることをやる先輩じゃない。

『幻滅しましたぁ~そういう人だったんですねぇ~』

 私のその声に先輩はうにゃうにゃと返した。


 俺は…もともと…こんなんだ。……ずっと…仮面被ってた…
 悪いな……」

 耐えきれなくて、背を向けた。ふざけるな。
 けれど、それは意地でも言わなかった。
 新しい世界でやり直して、そこで先輩を見返してやる。そう思った。



 目の前の、元の世界に帰ろうとする『崖』の民を数えもせず真っ黒こんがりに焼いていく作業。
 この上司の更に上司は、一応言う事を聞いていれば優しい。ごはんも自分でとれとか言わない。

 だけど、どこか物足りない。

 今やっていることが本当にあっているのか分からない。

 目の前の人は本当に殺さないとどうしようもない人なのか?
 自分こそが相手にとって、殺さないとどうしようもない人として見られているんじゃないか?

 問いは尽きない。目の前の煙のように、すべてが煙に巻かれていた。

 と。

 突如、目の前の煙が切り刻まれた。

「おい、久しぶりだなぁクソ後輩!」
「……先輩!?」

 目の前の先輩に、戸惑いながらぼんぼんと炎弾を投げる。だけど。

「甘い甘い!」

 あっという間にそれらは切り刻まれて、跳ね上げられて、空中で爆発する。
 そうこうしている間に私は岩に押し付けられていた。

「…………随分と積極的なんですねぇ~ちょっと性格変わりました?」

 答えの代わりに、先輩はへっと笑った。

「お蔭でな」
「はい?」

「お前の困ってる声が聞こえた」
「…………はぁ?」

 私の戸惑う声も気に留めず先輩はいつもの猪突猛進を発動する。

「待たせたな、目は覚めた。
 お前が、また俺がいなくて途方に暮れてる声がしてな。
 しっかたねぇな、と思ったらばっちり目が覚めた!」
「…自意識過剰ですよぉ~」

 ああ、本当にこの人は。

 だけど、何故か涙が流れてきた。

「……貴方の中の私が、声をかけるの、遅れちゃってすみません。
 あと30分だけ、待ってくれませんか。けりをつけてきます」
「おう」


『もしも、どこにも行けないと思ったら、こっちにおいで』

 タナカ、とか名乗った人の声が頭を過る。
 どこの戦力にも特に加わらない代わりに不老不死で暮らせる場所があると。

 そんなのつまらないと思ったけれど、先輩と、二人なら。

「あ、あとこれ。お守りです」

 藤色の髪飾りと、藤の模様のマント。
 不老と不死の異能を持つ者達の血が染み込んだそれ。

「一人分しかないんだろ。なら、お前が持ってろ」
「でも…」

「いいから。俺のほうが戦い慣れてる。殺す覚悟も殺される覚悟も。
 だから死なねえ」

「…かっこつけすぎですよぉ」

 でも、どこかおかしくて。
 私は戦火の中場違いな笑みを浮かべて、ムシュマッヘのもとへ駆け出した。

to be continued... ?





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最終更新日  2017.04.15 21:34:28
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