Laub🍃

Laub🍃

2012.03.04
XML
カテゴリ: 🌾7種2次裏
*俺達の世界では傷付けられた者は敗者だった。
 だから常に己の身は己で守るように気を付けて、足りない分は片割れ達と支え合ってきた。

 だから、出来る限り体にいいものを食べてきたつもりだった。

 そうした意味では俺にとってそいつは毒だった。
 何故そんな毒に近付いたのかと言えば、かつての己にどこか似ていたからだろうと相方は言ってくる。わけがわからなかったが、心のどこかで納得してもいた。
 過去の俺が俺の首を絞めてくる感覚。そいつに復讐心を抱く前の苛立ちはきっとそれだった。
 そしてそいつの目が、かつての俺と重なる目が、俺を、己に毒を与えた張本人と同じだと決めつけてくるのだ。奴らと同じ扱いをされるのも嫌だったが、奴らの気持ちが分かってしまうのも嫌だった。

 だから。俺はその毒で奴らを、己の毒を中和されたかったのかもしれなかった。
 俺がかつて奴らに齎された毒をそいつに食べさせて、免疫を作らせて、それを吸収したかったのかもしれなかった。



 けれど、結局の所それは互いの傷付け合いになるだけだった。



 あいつと似たあの子は薬だった。
 あの子の為に生きようと思った。
 はじめは見下していた筈だったのに、いつの間にかあの子が俺を救うだけのやさしさを、強さだけではどうにもできないものを持っていることに驚き、そして救われた。

 あの子は、俺を恐れた目で見ることはあっても、憎しみの目で見ることはけしてなかった。
 だからこそ余計にかつての片割れと重ねたのかもしれない。

 自分自身を正義と思うことなく、けれど人の正義を否定することなく生きる事。
 あの穏やかで馬鹿みたいな生活で、正義なんて存在しない世界で、あの子も、そして流れ者だった俺達も、癒されたのだろう。

 哀れみを受けたくない筈だったのに、気付けば助けられたことに対して、純粋なありがとうを言えるようになっていた。

 哀れで、弱くて、だからこそ優しく在れる。きっと俺とあの子は互いにそんな気持ちを抱いている。傷付けられてもそれで終わりではないのだと。敗者の美学だろうとなんだろうと、敗者復活戦にさえ赴ければそれはしなやかなつよみともなるのだと、あの子達に俺は教えられた。


 けれど、今後いたずらに傷付けることはないだろうと思った。その必要も、もう、ない。
 ……片割れも、きっと、それを望んでいないだろう。

 そして。
 憎む相手に頭を垂れることー敗者と認めることは、きっと難しいけれど、言えないよりは、言った方がいいのかもしれない、とさえ思いつつも、実は、ある。あるのは、頻繁に必要以上にすみませんごめんなさいと言うあの子達の影響だろうか。……あの子達と、今までにない付き合いをした結果なのかもしれない。相方も影響を受けて、それに納得しているのだ。
 少なくとも、この影響は、毒ではないだろう。



 いつか。あいつの辛い気持ちとやらを分かろうと出来るだろうか。
 いつか。心から謝りたいと思えるだろうか。

 分からないけれど、ひとまずは悩んでみたいと思った。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2017.03.17 02:22:04
コメント(0) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: