Laub🍃

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2012.04.29
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カテゴリ: .1次長
「無理」
 妹のトウカは、すぐに無理と言う。

 こんな世界を救うなんて無理だと。
「って言うのも、もう何百回目だよ」

 弟はそれをからかい、妹はぶすくれる。

 どうすればやめさせられるのか分からねえ。

 でもなんだかんだで着いてきてくれるから、ただ単純にワガママを言ってみたいだけなんだろうな。そうだと、いいな。

「「すー…すー……」」



「ほら、出ておいで」
「……」

 数年前、人に夢を見させる異能を持っていたマヌカ=ハニー様が亡くなられた。それから俺達は周りくどいやり方で人を治さねばならなくなった。疫病を治す当人が、俺達以外が起きていたら表に出られないと言うのだから仕方がない。

「…………」

 なかなか動かないそのこを応援すべく、囁くように歌を歌う。
 馬鹿みたいだと思いながらも、祈るように歌うと、そのこは疫病患者に手を伸ばし、その病を吸い取り始めた。

「…………………」
「ありがとう」

 にこりと笑うと、そのこは少し照れたようにして、また一瞬で元のすみかに戻った。

「お疲れ様、兄さん」

「ありがとな」

 …チクタではないが、小馬鹿にした様子で言われると、自分のやっていることのバカらしさが更に分かってしまう気がして、心の余裕に見せかけている虚勢が削られていってしまう。
 ……ここまで頑張っても別に見返りが得られるわけではない。
 だけど、母さんが残した呪いを消し切るまで、俺達は死ねないのだから仕方がない。

「次から努力しようぜ」「無理」



「あんたにもできることはある」「無理」


「そんで無理と言って逃げた後、そこいらで遊んでるじゃないか!」
「……もう、いい。ほっとけ、チクタ」

 本当にマズいのは、俺達が拘束されてそのままこの国が滅亡することだ。
 それは母さん父さんを追い詰めた奴等のみならず、あの人たちが大事に想っていた人達までも、そしてその絆までもダメにしてしまうことだから。

「オイ、まーたガキどもが変なことやってるよ」
 ハイエナがやってきやがった。
 ……5人か。この間撒いて逃げたのに、なんでまた顔を出すのか。
 このままでは眠った人達をぼろぼろにするから、撃退してしばらくふんじばっておかなければならないな。
「ガキ?というにはマダマダお前の方がガキだろ?」
 ぱっと見、オッサンの集団であるそいつらに言い返す。こいつらに最初に会ったのは数日前だ、だから俺達の事をろくに知らないんだろう。折角普通に帰してやったのに、馬鹿な奴。
 沢山の血を吸ってきた槍を振り回し、牽制する。
「なに?」
「本当に失礼な奴等だな。年上には敬語を使わなくちゃいけないだろ?」

 ……格上の奴にもな。

 右、左、右。

 剣戟を掻い潜り、そいつの腹に槍の持ち手の先端を叩き込む。
「兄さん、こいつら目が覚めてきたよ」
「よし、じゃあいつもどおりやるぞ」

 引き付けて、撤退。
 その後は山賊と、病に苦しんでいた奴等がどうなろうと関係ない。

「散開!チクタはあっち、トウカはこっちだ」

 挑発すれば一時的にこっちに着いて来る事は来るが、追いつけなければ山賊はいずれ元の場所に戻るだろう。
 だけど、病が治り目が覚めたあとならば何が起ころうとそいつらの責任だ。

 俺達は母さんのように正義の味方なんかじゃないから。
 俺達は父さんのように誰かの為に尽くしてもいないから。

 ただ、惰性でこんなことをやっている。終わりに向っていく明日を迎える為に人に明日を与え続けている。俺は弟妹の為に。チクタは俺とトウカの為に。トウカは俺とチクタの為に、生きていく理由をこれで造っている。だからこそ狂わないで居られる。

 母さんの遺したものを全て成仏させることが俺達の最終目標だ。

 ……こんなことをやっても二人が帰って来るわけじゃない、こんなことをやらなくても誰が責めるわけでもない。遊んでるようなものだ。

 昔、俺達が尽くしたいと思った相手も、結局は病に自分が罹って死んでしまった。
 俺達はそこに駆け付けられなかった。間に合わなかった。

 その事に対する俺のもやもやした気持ちを、昇華する為にこんな行脚を続けているだけだ。

 助ければそれだけもやもやが晴れるからやっているだけだ。

 だから、トウカは俺に付き合ってくれているだけだから、やっぱりしっくりこないんだろう。



 山賊から逃げきって、いつもの洞窟で落ち合って。チクタがトウカを問い詰める。
「何故底力あるのにそれを使わないんだトウカ」
 病を治すあのこは、俺達の唄でより速く、そしてより強く相手の身体を治し、癒し、活性化させられる。そしてあのこが一番言う事を聞く相手が俺だとすれば、あのこの能力を一番引き出せるのがトウカだ。チクタはどちらも特化していないから、トウカを見て歯がゆくなるのだとか。
「チクタ兄さんのそれはいらないなら僕にくれよという気持ちと似たようなもんでしょ?
 それかもったいない精神」
「うるさい!……それに、お前が遊んでるのを見ると腹立つんだよ」

 チクタは遊んでいない→しかしトウカにあわせサボる気もない→トウカが合わせてくれるように説得する方が前向きな検討であるという思考回路によって説得したくなるんだと思われる。
 しかしチクタがこういう風に若干しつこく説得しようとしてるから余計に反動でこうなったのかもしれないんじゃないだろうか。
 言わないけれど。
 と遠い目になっていると、俺にも矛先が向けられた。
「お前……まさかとは思うが頑張ったら頑張った俺や兄さんより前行ってしまうから手を抜いておこうと思われているんじゃないのか」
「はぁ!?面倒臭いなあもう!」

 おいおい、そんなこというなよ。言ったってどうにもなんねえだろうが。
 駄目だ、どうフォローしようとしてもゲスな言い方しか出来なさそうだ。ここはパス。
「まあまあ、取り敢えず飯食おうぜ」
「むー…」
「うぬぬ…」

 トウカは一人離れて。俺を間にして、チクタが座る。せっかく患者から頂いてきた木の実を食っているっていうのに、味気ない。
 その間も、チクタは好きなものと苦手なものを結びつけると両方から退却するあいつにどうすればいいのか分からんと言う。俺だって分からんさ。
 木の実を食い終わると、ケセランパサランのようと母さんが称した皮だけ残った。
 それは、持っていると幸せになれるとか、なんでも願いを叶えるとか、そういういわくつきの代物らしい。

「……山ほど持っているのになあ」

 持っていても、どうして俺達は満たされていないんだろうな。
 全ての裏側を支配している筈なのに、どうして疲れだけが残っているんだろう。

 洞窟の中、この世界だけでもういい筈なのに、どうして俺は外に出て行くんだろう。

 岩壁に頭を預け、ケセランパサランモドキを沢山寄せ集めると、チクタとトウカもぶすくれた顔のままやってきた。

「……おやすみなさい」

 でもきっと、疲れているからこうして眠る時も幸せになれるんだろうな。

 ……いつか、呪いを全て解くその時が来たら。そうしたら、その後に三人で死ぬ時はそれはもう極上の酒よりなお深い至福を得られるのだろう。

 夢を馳せて、目を閉じた。

to be continued... ?





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最終更新日  2017.03.31 02:58:38
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