Laub🍃

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2012.07.03
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武器を持てば自身がつく。
そんな話を聞いた後、思った。

あたしの武器はきっと笑顔だ。

誰よりも笑顔に自信があったから、怖いものはなかった。

沢山の観客の目の前で微笑むピエロはきっとこんな気持ち。

あたしの天使の微笑みは危ない人をぼーっとさせて振り払える。
怖いおじさんも微笑めば許してくれる。
そんな魅力があたしにあると思ってた。

「……何よあの女。あんな女より私の方が絶対可愛いのに」


しかも完璧超人。

「ナンバーワンじゃなくてもいいじゃないですか、オンリーワンで」
「ジロー…」

最近入った黒服のジローは、普通だけどやたら人の機嫌をとるのがうまかった。
目敏いのかもしれない。

「あんたいっつも人に気ィ使ってて疲れない?」
「そうしないと僕じゃないですから。…それに、身内にもっとわがままな人が居るので」
「…ふーん」

それなら、その困らせるナンバーワンになってみたい。

ふと、そう思った。


*********


血縁や能力が重視される世界で、愛嬌でもって生きていける世界はそう少なくない。
賭博の聖地ノジカか、その更に下層ー海底炭鉱のサービス業か。


そこに来る人達は人生を変える為や人生を賭けるためにやってくる。
龍虎相討つ。
そんな様子の人間ドラマで、可愛く癒してあげる給仕があたしのお仕事だった。



「あの…」
「クスクス」
「だよねぇ~」

「……」
ちょっと、のつもりだった。
許されると思ってわがまま言って、許されると思って人を軽く見て。
返ってくるなんて思わなかった。
周りは全部あたしにやさしいもんって、信じてた。

あたしが働き始めてから2年目。

職場は地獄だった。

「……飲み過ぎた」

ろくなヘルプもない状況では自分を奮い立たせるしかない。
あたしのそのお薬はもっぱら酒だった。

「オッス、お疲れ」
「……ありがとう」

同業のジローが水を差しだしてくれた。

間違えた。ここは地獄だけど、こいつだけは違う。

そいつが居なかったらとっくにあたしは外の沼に飛び出していたと思う。

「お前、ここに合わないみたいだよな」
「でも外じゃもっと居場所ないもの」
「そうか?たとえばー……」

ここは流れ者の辿り着く所。
ジローは、どんな過去を持っているのか。
おかしなコネを話し始めるジローに心奪われる。



ああ、きっとあたしの笑みにほだされる人もこんな気持ちだったんだろうな。






色とりどりのバラの花が中で咲き誇る、透明で厚みのあるバレッタを外す。
山では必要のないものだから。

酒の臭いとも変な草の臭いとも全ておさらば。

ジローの数日前の言葉を思い出す。

『お前に相応しい他の場所がある。一緒に働かないか』

「上着着ないか?寒いだろ」

ジローがコートを投げてよこす。
ここらへんはたしかに冷える。でも。

「あんたも寒いでしょうが」
「大丈夫。男は寒くないから」

ジローのグラサンの奥を見たことがない。
髪だって多分染めてる。
本名もきっとジローではない。

でも。

悪い奴じゃない。きっと。


…そいつの誘いに乗ってもいいと思えたんだ。


どうせ他に、やりたいこともない。
最後まで乗り切ってやる。
あたしに相応しい泥船なら、そこにジローが居るのなら。


to be continued... ?





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最終更新日  2017.05.04 23:06:05
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