Laub🍃

Laub🍃

2012.08.09
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カテゴリ: ⛅👜
彼女は、あたし達を導くと言った。


***********************************************

「……」

私の好きなあの人は、彼女をよく見ている。
あの人の恋人に、彼女は似ているらしい。

数日前、女性にしては身長が高く髪が短い彼女は言った。

「お前たちは選ばれた人間だ。だから、その資格に相応しい能力を持て」

髪の長い不良のような人が、望んで連れて来られたわけでもないのに、と文句を言えば。

「おれだって」

「どうしてよりによって」
「あいつらを連れて来たかった」

そう言って泣きながら怒るので。
そうして、相方らしい、浅黒い肌の彼が間に入って止めるので。
結局その話は触れないことになった。

どこに会話の地雷があるのか分からない。

『お前は、あいつと距離を取らないんだな』

相方さんのそんな言葉に、あの人が返した言葉を思いかえす。

『……過去の世界の、幼馴染に似ているんです』
『……それは…残念だったな』
『…俺は。俺は。諦めませんよ。どこかで、あの人は生きているかもしれない』

『……?はい…』
『あいつも、過去の世界に幼馴染を置いてきてるからな』
『……!……』

あの人は、その幼馴染も生きている可能性があるのではと言おうとしたようだったけど。
それでも結局何も言えずに終わった。


それは、抱いている間は生きられるものだけど、潰えたら自分を殺す刃に変わる。

だから、彼女の前では、日々生きる為に必死になるしかなかった。

ふわふわしたキバウサギ。白いゴキブリ。みんな食べた。
泣きながら殺した、泣きながら潰した、料理は味付けしてないのに塩辛かった。

だけどそうしないと、彼女の視線で射殺されそうだった。
赤い髪の不良さんより、ピリピリしたガイドさんより、底知れないおじさんよりも、怖かった。

だけど、日々、彼女のおかげで生き延びられた。




「大丈夫か」
「……少し、ひっかかってる部分があります……よければ教えてください…」
「分かった」

なんとなく。
本当になんとなくだけど、あたしは気にかけられている気がした。
だから、少しずつ、本当に怖かったけど、少しずつ、踏み込んでみた。
近づいて、色々なことを教えてもらうようにした。

そうしたら、怒られなかった。

裁縫、籠作り、住まいの管理。
消費するだけじゃなくて、作ることが、工夫することが、だんだんと楽しくなってきた。





「だ……大丈夫ですか?」
「……何がだ。大丈夫だ」
「……は、はい!」

そして、近くで暮らしていると、次第に彼女の弱点も具体的に見えてきた。
一人で生きられない。
トラウマで夜眠れない。
蒼白な顔と髪が痛々しくて、教えられ叱られることが嫌でなくなってきて。

あたしも、仲間も、彼女に何かできないだろうかと思うようになった。
…そしてあたしの好きなあの人は、どうやら彼女を支える為に生きることにしたらしい。

相方さんが忌々しげに呟く。

「……困るんだよ、あの状態は」
「…どうして…?」

あたしの親友は恐る恐る踏み込む。
が、頑張れ。

「…あいつが命を捨てる理由が増えるだろうが」
「……あはは、大事なんだね」
「……」

相方さんは溜息で返す。


だけど。


何かを喪った人同士が、補い合うようになれるのならば、それはそれでいいのではないかと思ってしまった。

あたしも、心の支えだった愛猫はもういないけど、だけど、皆が居るから、なんとか生きていけるんだと思う。



生きていく。

続いていく。


ゴールの、その先へ。





【終】





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最終更新日  2017.11.25 00:56:15
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