Laub🍃

Laub🍃

2012.08.24
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カテゴリ: .1次長
目の前では廃殿の怪物とやらが、敵の死体を食い荒らしている。

「よっし。あらかた片付いたな、これでしばらく普通の奴は近付けないだろ」
「ここを防衛線にするのか?兄貴」
「んー、まあそのつもりもあるけど、取引にも使えるからな。それに、約束は果たさないと」
「……?」
「まあ見てなって。何千年も「みんなのために」守られてた封印を、「たったひとりのために」破った奴が今から来っから」


*****************探検家の話

 本来なら、そんな悪魔の甘言になど乗る自分ではなかった。
 何千年とそいつらを阻む仕事をしてきたのだ。そいつらをただ搾取されるだけの存在にしたのだ。あとはその力を結晶化させる技術だけだった。


 悪魔には子供が出来て変わったなとからかわれた。そうだ、私は救われてしまったのだ。走っても走っても闘っても殺しても終わらない旅に疲れてしまった。安らげる家が欲しかったのだ。
 同様にそれを与えてくれた彼女を幸せにしたかったのだ。
 しかし、もう力が足りない。時間が足りない。
 どちらかを選ぶとなれば、私は。

σπάω βλέφαρον スパオ ヴィエーカ

 それと知れぬように、魔法陣を数分だけ緩める。簡単なお仕事だ。
 なに、証言出来るような人物はみな、混乱の中で死ぬ。問題ない、大丈夫だ。




 ……その後はそ知らぬふりをして懸命に戦い、生き残りを逃がした。
 ”門扉”から既に幾つもの部屋を突破された最前線。

 己は一番最後に残って戦う振り。茶番だが。



 臓物をぶら下げ必死に戦う実験動物の後ろで綺麗な笑みを浮かべ、近くの者と談笑している。
 余裕あることで結構だ。
「ぐはぁっ」
 何度目かの血を吐く。そろそろもういいだろう、生きている者は大体逃がした筈だ。
 その気持ちも込めてそいつを睨む。そうするとそいつが瞬きをして、それはそれは綺麗な笑みを浮かべた。気持ち悪い位に悪意のなさそうな笑み。





 そいつが数千年前と変わらないふざけた口調で言う。隣の…見ない顔だが、臣下か?……は引いた様子で見ている。そりゃそう思うよな。くすりと思わず笑うと、そいつは覚悟を決めたようだねとにやりと笑う。
 そして、これまで微動だにしなかった、彫像のような手をかざし、

「ラブ注入!なーんつって」

 俺の体に、何かを撃ち込んだ。


「…ぐ……」
「あんれぇー、まーだ立ってんの?元気なことで。ま、こんくらいで死なれたらびっくりするけど。んじゃそら、つまみだしちゃってー。面が割れてないお前が一番最適」
「あ、ああ……」

 衝撃よりも、埋め込まれた、どくどくとそれ自体が脈打つ何かによって自由に動けなくなっている俺を、新顔が担ぐ。

「じゃ、兄貴、行ってくる」
「おー。反撃されないように気を付けろよ!魔族化したからっていってもお前はまだまだぺーぺーなんだから」
「おうよ」
「……」

 反撃などするはずがない。

 だって俺は、この撃ち込まれたもの自体を目当てにここまでやってきたのだから。

 ここまで茶番。だけど、万が一周囲から見られた時にグルと疑われないように。
 念の入ったことだ。

「……ふ……」

 群雄割拠、魑魅魍魎、戦国時代。

 どうなるのかは分からない。
 しかしこれまで尽くしてきたのだからもう、十分だろう。

 そろそろ俺は、家族を大事にする、一個人に戻りたいのだ。
 それで殺されるのであればそれはそれで本望だ。
 代わりに俺の愛しい妻子が幸せに生きられるのであれば。

「じゃーね、騎士さん」
「……地獄で会おう、化け物」

 それが、どす黒い光溢れるそこでの最後の記憶。


*****************


「そういえば、兄貴。あいつどうしてるだろうな」
「んー?ああ、この間こっそり見に行ったら娘に子供が出来たとかでデレッデレに目じり下げてやんの。完全にあれはもう、普通のオッサンだったよ」
「……俺達は、そんな風になれるのか?」
「あんだよー、俺と一緒じゃ不満なのか?」
「……いや。兄貴が望むなら、生き続けるさ」

文明を始めたのは愛だという。

じゃあ、文明を終わらせるのも、愛なのかもしれないな。

弟分と一緒に、光と闇が喰らい合う様子を空から眺める。特等席だ。
大好きな彼女は未だにあの化け物の核として生きているから、時々彼女の為に協力をする。
戦争で死んでいく沢山の愛を、彼女は食らう。そしてそれらを殺す事なく、夢見せたまま眠りにつかせるのだ。あいつのように、全てを喪いながら尽くすことに疲れてしまった敵は、もうそれで駄目になる。彼女によって世界平和は成し遂げられるのだろう。
 -だが、別の何かがこの地を制するのも、どちらにしても、楽しみではある。

「あははっ、あんがとよ。安心しろよ、まだまだ 人生 うたげ の肴は沢山あるから」




to be continued... ? 最終更新日 2017.02.23 23:09:54





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最終更新日  2017.03.20 16:16:54
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