Laub🍃

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2012.09.14
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カテゴリ: .1次長
兄の辛口カレーをはじめて食べた時、ひーひー言う私を兄は楽しそうに笑い飛ばした。

 あの時は怒ったけれど、今思い返すとあの記憶は幸せ過ぎて泣きそうになる。





 狼狽えるその人の目の前で、頭を下げる。
 その人にとっては受け入れがたいのかもしれないけれど、それでも受け容れてもらえないと、兄さんはまた一人ぼっちになってしまう。

 私の初恋は兄さんだった。
 憧れていた、私が幸せにしたかった。

 だけど私は兄さんに貰ってばかりで、何も返せなかった。

 だから、最後の恩返しを今、しようと思う。




 あのちっちゃい家の中で、兄さんは私のヒーローでした」


 親とも呼びたくないあんな人達の理不尽な暴力の海の中で、それに抗う兄さんだけは血にまみれていても不思議と綺麗だった。


 一人だけ、年上だった兄さん。


 その、悪い奴をやっつける拳。

 ぶん殴って、もう手を出さないように懲らしめる声。

 弱い妹や弟の代わりに沢山傷付く身体。

 それでも大丈夫だって言う笑顔。

 一人、強く立っている背中。

 かっこよかった。

 それなのに、その拳はいつにか、私たちの為にお金を稼ぐようになってから、悪者じゃない人たちにまで振るわれていた。

 私は止められなかった。

 だって、兄さんがぼろぼろでカレーの材料を買って帰って来たとき、私が笑うと、兄さんも笑ったから。

 あの時だけは本当に、幸せだったから。

 だから、兄さんが大事に出来る女の子が出来て、本当に良かったと思ったんだ。
 兄さんのカレーの味。久しぶりに食べたら、ちょっと変わっていた。きっとあの娘と一緒に料理をしているんだろう。

「お願いします。あの娘を、兄さんと結婚させてあげてください」




 この人は、兄さんとはタイプが違うけれど、きっとやっぱり真面目過ぎて道を踏み外した人。
 だからきっとあの娘に癒されたんだ。

 あの娘はきっと、沢山傷付いてきた人だ。だから、人の痛みが分かる人。
 あの娘より目の前のこの人にはじめに兄の事を話すのは、あの娘に、私の痛みまで、想いまで気付かせたくないからだ。身勝手だ、分かっている。だけど、これしかないんだ。

 この人にとっても大事な人を、兄さんに。

 エゴだ。それでも私にはこうして頭を下げる以外に、兄さんを幸せにする方法が分からない。
 笑っていて欲しいのだ。

 泣きそうな笑み、無理してる笑顔だけじゃなくて、またあの笑顔を。

 まっとうな道を歩んでいる時の笑みを。


 あの娘の前なら、きっと出来ると思うから。


「お願いします」

to be continued...?





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最終更新日  2017.03.26 21:56:23
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