Laub🍃

Laub🍃

2012.09.19
XML
カテゴリ: .1次長
暗い所にずっと居ると感覚が鋭くなる。
 だからわたしはずっとここにいるの。

 四角い夜を吸い込んだような箱から、小さな幼い声が漣のように響く。
 その様子は不気味だけれど、どこか好奇心を刺激するものだった。


 気が付いたらその施設に居た俺は、妹と一緒にそこを探検している最中だった。

 ついでに言うなら、かくれんぼの最中に入っちゃいけない所に入ってるところでもあった。

『だれ……?』
「!?」

 -だから、そこで声をかけられるなんて、ましてや見られても居ないのに居る場所を当てられるなんて思わなかった。




 そこだけが、中の誰かと外の繋がりのようだった。

「……すげえな。ほんとに、そこから何も見えないんだな?なのに分かるのか?」
『…うん。話すのは…そんなに多くないけど…晴れの日はなんとなく明るいし暖かいし、風の音も聞こえる。雨の日は音と寒さで分かる』
「すっげえな!」
『…あなたの声…お、大きい…』
「えー、ひんじゃくなやつだな!」
『ひ、貧弱?』

 暫く、自分の妹がバカだって言う話とか、よく喧嘩する話とか、面倒を見る筈のシスターが全然やる気がなさそうとか、あるいは怒ってばかりとかいう話をする。
 そいつは興味深そうに聞いていた。それが余計に嬉しくて、また話をする。

「あー、なんか俺ばっか話してるな。お前の話は?なんでこんなとこにいるんだ?」

 言った瞬間、沈黙が広がった。やっべ、まずいこと言ったか。シスターが黒い派手な下着着てることをからかった時に確かこんな感じになった。


「あ、ああ」

 話してくれるのか?そう少しの不安を抱きながらも相槌を打つと。

『あ…誰か…来る。こっちに来てる。……あなたは、ここを出て。部屋の隅にある穴、地下道に通じてる、から』
「お、おお!?」

 俺にはそんな音欠片も聞こえなかったけど、大人に怒られるのも殴られるのも怖いので必死に部屋の隅に向かった。


「おー!またな!」

 それから家具の隙間から抜け穴の真上に潜り込む。大人だったら重たい家具をずらさないと使えないんだろう、引きずった跡があった。そしてそこには埃が結構積もってもいた。

……あいつが閉じ込められたのは、少なくともこの穴の存在を知ったのは、結構前なのか?幼い声だったけどな、とひとりごちりながらもカーペットをたくしあげ、抜け穴へ続くらしき扉を見付ける。
「本当にあった…」

少し重かったが、木の扉だったおかげで開けることができた。ぎりぎりで潜り込む。カーペットを引き、扉の上に乗せ、ぷらぷらしている足から先に飛び降りる。頭上で僅かにず、という重い音がした。
 そんな風にがたがたやっていたから、あいつの返事は聞きとれなかった。

『ーーーーーーーーまたな……?また、な…か……』

 何か言ったか?なんて聞き返す暇もなく、俺は地下室への階段に強かに腰を打ち付けていた。
 きっと大人だったら足が届いていたんだろう。
 同時に、頭上で扉が開く音。きっとあいつの言っていた来客だ。…あいつ……名前、聞き逃したな。降りる時に大変なことも教えてくれればよかったのに。
 思いながら、辺りを見渡す。

 真っ暗だった。埃っぽくて、どこか変な臭いもした。音は何も聞こえない。…いや、かすかに風の音は聞こえる。もはや尻を打ち付けた石だけが寄る辺だった。
 元々来た場所は誰かが来るから使えないにしても、別の道がなかったんだろうか。
 しかし元から来た道にはもはや届かない。いいや行ってしまえ、と俺は一歩を踏み出した。



「あれ?兄ちゃん、変なにおい~」
「うっせえ、井戸行ってくる井戸」

 くっさ~くっさ~と繰り返し鼻をつまんでアピールしてくる妹を殴っておく。かわされた。むかつく。大体いつも泥遊びしてる時はこんな臭いだろうがと言うと、
「えー、なんか違うもん、そういうのと。兄ちゃん一体どこに行ってきたの?」
と言われるから、適当に馬糞に突っ込んでそこらを転げまわってたらこんな風になったと言った。
 行水をしますとでも言っておけばシスター共は敬虔ねと言う筈だ。
 神殿なんてそんな単純で馬鹿な奴らばっかりだ。

 -だと、思っていた。

 けれど、あいつは。
 あいつをあそこに閉じ込めているものは、何かもっと大きなもののように思えた。

 結局あの地下室…いや、地下道には何もなかった。不気味なくらいに、何も。石の冷たい温度が囲むだけ。一時間ちかく左手で壁を伝って歩いていると、足元に風が吹き付けてくるのが分かった。
 子供でないと抜けられない狭さ。子供で良かった、と遊び以外で思うのは初めてだった。
 そこを抜けて出たのがこれまた変な下水道。脇の小道をとぼとぼと歩いていると足を滑らせどぼんと下水の流れの中へ。しばらく流されてどうにかはいずりあがった時には、監視塔が目の前にある側溝に居た。……もう、あそこには行けないかもしれない、と思った。

 空を見上げると、小さな小鳥がさえずっている。あいつみたいな可愛い高めの声。この声は、あいつも聞いているのだろうか。


「……あいつ、可愛い顔してるのかなあ」

 ぽつりと言った声は、空に吸い込まれていった。


→to be continued... ? 最終更新日 2017.02.06 22:24:11





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2017.03.20 16:14:13
コメント(0) | コメントを書く
[.1次長] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: