Laub🍃

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2012.10.11
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「手料理でも用意して待っててね」

 ああもういつもこうして私は置いてけぼりにされるのだ。

 チヅル様もルリネ様も、シスターなのに銃撃戦があると真っ先にそちらに飛んで行かれる。
 帰って来られる頃には頭巾に仕込んだ鉄板も、時にはその奥のルビーの巻き毛と瑠璃色のストレートもむき出しになっているのに、それに私達を加わらせてはくださらない。

 私達はいつも残る同僚とともに、壕の中に籠り、幼子たちに子守唄を歌うことしかできないのだ。宮殿の一部、監視塔から送られる世界が平和になるまでは。

「…じゃあ…」
「……うん…」

「…なぁにを、話してるのかなぁ?まだ子守唄が足りなかったかしら?」
「!…クロシェット様…」



「ツキメくん、君いつも出ようとするの好きねえ。どこに行きたいの?遠い所ならごたごたが片付いた後ついていってあげるから」
「べっ、別にそういうわけじゃ」
「そう?ならどういうこと?」

 ここで育てば絶対に安心なのに。
 せっかく前線に行かずに育つことができるのに、どうしてこの子はいつも飛び出そうとするのかな。せっかくここの最大の特徴であるセンサーが、意味をなさなくなってしまうじゃない。

「まったくう…」

 一番最初に逃がしてしまったことが原因なのか。
 発動中のセンサーの目の前に居たから幸い見付けられたし、あそこは比較的安全区域だけれど、センサー自体の放つ電磁波が子供の身体にはあまりよくない筈なのだ。

「ほらほら、ご飯が出来たわよ。食べなさいな」
「ジャンティ」
「クロシェット、あなたも。気を張り過ぎよ」



「はーい…」
「!」

 気が緩んだ瞬間、どこかで大きな爆発音がした。爆発音……いや、破壊音か?

「センサーの辺り!?」
「そ、そうみたいね、チヅル様とルリネ様が今向かわれているみたい……」



「……と、とにかく私達のできることは…」
「いまだ」

 ぼそりと小さな声がした。途端にツキメくんと、その妹のヒグチちゃんが飛び出した。

「ふ…ふふ、だーめだよぉ」

 焦りを押し殺して追うけれど、異様にちょろちょろとすばしっこく捕まえられない。いつも初動で抑えられているから油断していた。

「流石にそれはさせないわ」

 ジャンティが壁に手を当てる。
 瞬間、呼びかけに答えるが如く壕の土壁から根と蔓がはい出してくる。

「大人しくして、私達も痛い目には遭わせたくないの」
「そーよぉ、私達は貴方たちを守らなきゃいけないの」

 ジャンティの能力は性格に反してやや荒い。けれど絶対的に強い筈なのだ。

「……あれ?」
「え?」

 なのに、その時はジャンティの『腕』がうまく発動しなかった。絶妙な所で、何かに守られているかのようにするすると滑って避けられてしまう。

「な、何故…!?」

 そう言った私に応えるようにして、ジャンティは壕の入り口をふさいだ。いくらなんでもこれでは通れないだろう。

「……すんませんね」

 けれど、その予想は打ち破られた。ツキメが取り出した何かの液体を振りかけられた途端、ジャンティの『腕』があっという間に萎れ、子供が通れるくらいの隙間が空いてしまったのだ。
 まだ追いつくだろう。そう思って追いかけるが、他の子供達が何故かこういう時に限って邪魔な所に立っている。

「ちょっとあなたたち、そこをどいて!……そんなことしても、お父様お母様には誇れないのよ!」

 畜生、私はここを守らねばならないのに、どうして邪魔をするんだ。

「用事が終わったら戻ってきまーす!」

 私たちの苦々しい想いとは裏腹に、ヒグチ達の声は明るかった。

「オレ達、守らなきゃいけない子が居るんでーす」

 その決意はどこか、ここに来たばかりの私を彷彿とさせて。
 何故か脚が、頽れてしまった。

to be continued... ?





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最終更新日  2017.03.20 14:45:25
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