Laub🍃

Laub🍃

2012.10.27
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桜も、煙も、以前ここにあったような雪も。

だけど、そのごみが土になっていく様子をわたしはとても美しいと思うのです。
やがてそこに苔むして虫が這って、そうして小さな花が咲く。

わたしは小さな世界に、大きな世界を見出します。



勝者が居るからには、敗者が居る。
それは当たり前のことです。

わたしたちは殺し合いに疲れ、中立地帯の退屈にも疲れたので、その人の誘いに乗りました。

刑務所のように暴力が支配するわけでもなく、学校のように仮面が支配するわけでもなく。
そこは”おかね”というものと、それを操るセンス、勘がものを言いました。

「ぎゃんぶる」
「かじの」

と、その人はそれを称しました。
その人がわたしたちに使わせたのは小さなかたまり。近くにある、小さな小さな炭鉱から出る鉱石で作ったのだそうです。

おかね、の概念が、わたしたちにはありませんでした。
恩義の貸し借り、血縁の繋がり、本能に従う忠誠や序列があればなんとでもなったからです。
わたしたちの祖先は、何千年も前に追い出した山の向こうの人達を憎んで「おかね」なんてない世界を作りたがっていたと、学校で習いました。

わたしたちはあっという間にその遊びにはまりました。
命のやり取りをするとき、ぶるぶると、わくわくとする、その感覚です。

その0か1かの選択を、わたしたちはおおいに楽しみました。

それに、立場に縛られず誰にも責められることはなく純粋に働けるのは本当にわたしたちの世界では希少だったので、その穴はむしろ天国だったのです。

穴の中で掘った鉱石で、”おかね”をつくること。
武器やまじない道具、異能の媒体でない純粋な”かざり”をつくること。
また、この近くの海について調べることが、負けた人達の主な仕事でした。


そのためには、全体を見られる仕事で、死ににくい仕事をしたいと考えました。

戦う必要のないここ。海の中で食糧も沢山手に入ります。
人魚とかいうそれは案外おいしいです。食べた事はないけど、嗅いだことのあるにおい。
わたしは得意分野の料理で、仕事をすることにしました。

胃袋を掴むということはとても大事なことのようで、上の”かじの”で働いている”くろふく”さんにも認められ、中には常連客さんになってくれる人も居ました。
後ろ盾となっている人の部下なのだと語る”くろふく”さんは、特によく来てくれました。
よほど普段お疲れのようで、わたしはたくさん愚痴を聞いて、撫でてあげました。

結婚することになりました。

はわわわ、と慌てるわたしを、そのひとは困らせてごめんと言いながらも、戦火よりも鍋のスープよりも熱い目で見つめるのですから、かないませんでした。





ーわたしは、今ではここの守り神として暮らしています。
もう、とうに身体は残っていません。
身体を海に流されず、夫や子供達に綺麗に片づけて貰ったお蔭か、その子孫の目を借りる事ができるようになったのです。

今ではわたしの子孫は十何代と続き、わたしの始めた地域産業・人魚料理はすっかり海底の人気料理となったようです。

ここは、外でやっていけなくなった人たちの拠り所。
無理矢理連れてこられた、いきじごく、と称する人たちも居ますが、大抵そういう人に限ってここに居着くのです。

ずっと、ここでいつまでも暮らしましょう。

はきだめのなか、どろのなか。

敵も味方もどろどろで分かりません。
敵も味方も足を取られ、剣は錆び、弩は詰まり、殺し合うことはありません。


ここには幸せと、永遠があります。

to be continued... ?
最終更新日 2017年03月21日 08時31分31秒





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最終更新日  2017.05.14 23:03:00
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