Laub🍃

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2013.12.06
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未来を目指して頑張っても、無駄なあがきや執着としてあざ笑われるだけだった。
過去の誰かの落とし物で食いつないで、誰かの尻拭い、後を濁したものを綺麗にするのが僕の役割だった。

それも、僕はいつも捨てられる側だったから。
いつも寒々しい一人か、競争に負ける側がいつも傍に居た。
好かれて奪い合われることもなく、好きになって奪うこともなく。

だから僕には捨てる側の気持ちが分からなかった。

そしてーだから、僕は殺される側の、捨てられる側の者をいつも愛した。
たまに見た映画で、敵として倒される筈の者が新しい敵に立ち向かう為に味方になるシーンや、世の中の全てに捨てられて汚れ仕事を任された主人公が、仕事が終わったら殺されると知りながら、まるで生きた証を残そうとするかのように必死にあがくシーンに、涙が止まらなかった。




猫ではない。鼠ではない。昆虫ではない。鳥ではない。
こいつの卵を捨て蟻が巣に運んでいくのを、こいつが吸い寄せられた罠を裏庭に置いて窓から朽ちていくのを眺めるのも、どこか僕の中の何かを殺していくようで捨てていくようで、浄化していくようだった。

ー蛆虫。

こいつは、死肉を食らう。僕と同じ。
ニッチを探し貯蔵を食らうが、しかし医療にも使われる。
要らないものを引き取ることで、誰かが執着されているものを剥がすこともできる。
そしてそれを昇華できなくとも、まるで白血球のような度量で、それを消化するのだ。

僕はそのことを知ってから、蛆虫を殺すのもやめた。

殻に籠ってそいつらが大人になるのを待ってから、裏庭から薄暗い空へ飛び立たせるようになった。


僕もいつか、望まれる蛆虫になれるだろうか。

夢の島、ごみ山の主、蠅の王から、誰かの夢と理想と殺された想いを守り抜く、どこまでも広がる墓の守り主にー墓守に、なれるだろうか。




ところで。

僕は何故か、昔から「絶対に死ぬ」と思った時に、不思議と死ぬことがなかった。
車に3回轢かれ、階段から2度落とされ、頭を何度殴られたか分からなかったけれど、心臓の発作を3度起こしたけれど、それでも僕は生きていた。
その度に僕は、僕が助けようとした何かに、僕が殺さなかった何かに、手を引かれているような感覚があった。
そう思う僕を、4度目の車が襲った。





でも、今度も、きっと、助かるのだろう。


そう思った僕は、―――――――気が付いたら、真っ白な場所に居た。


乳白色の、蛆虫や白子の白を想起させる雲が足元をふわふわと埋めている。
桑の葉の裏の、白い糸を想起させる糸が頭上をそよぐ。


「…ここは……」

天国?

「はじめまして」
「!?」

そう思う僕の目の前に、真っ白な少女が現れた。その傲慢さは、僕の嫌いなものだった。

「怯えないで。私は、あなたを助けに来たの。このままでは貴方は、あの世に連れていかれてしまう。綺麗な綺麗な天国に」
「えっ、それ、いいんじゃ」

よくわからないなりにこたえると、「あなたがそんなことを言うとは」とこれまた僕の嫌いな顔で彼女は言ってきた。

「え?天国よ?死ぬのよ?しかも、貴方は汚いものの味方なのでしょう?あなたをこちら側から見ていたのよ?あなたなら私たちの力になってくれるかと思ったのよ?だからたびたびあなたをこっそりと、助けていたのよ?疲れたのよ?」

にこりと吐き捨てるように彼女は言う。よくわからないなりに危機感を覚え、逃げようとするがふわふわした足元はそれを許してくれない。

「それともーーーーー捨てるの?」

捨てる。

そうか、この人もまた、捨てられた人なんだ。


そう思った途端不思議と震えは止まった。
挑戦するように、受容するように彼女と向かい合うと、彼女は無害で柔らかい、まるで蛆のような笑みを浮かべた。


「私は、佐藤甘子。あなたの名前は?」
「……僕を助けてくれたのは、あなたですか。なら知っているんじゃ…」
「それでも、訊きたいのよ。人生は選択の連続よね。こうして話している内容もそうだわ。
思うままに話しているようでいて、すべてを拾い上げているようでいて、有限な時間を可能性をこうして使うことにどこかで決めているのよ」

それが、どう関係あるというんだろう。まるでおもちゃ箱をぶちまけたような彼女の話に面食らう。
捨てられたものの中育ちすぎて、優先順位づけができない僕に言えたことではないんだろうけど。

「そして、名前っていう選択できないものの一つを、…与えられたものを大事にするか否かも、選択の連続よ。あなたは、それを大事にしていたわね。……もう一度、言うわ。あなたの名前を、教えて」
「………………うじ」
「……そうじ、ね?」
「ええ。汐海庫治。僕の名前です」

こうじ、とも読めるそれ。掃除、とあだ名を付けられた名前。蛆ともじって呼ばれた名前。
それでも、この名前は僕の愛するものだ。

捨てられて、嘲られて、それでも生きてきたー

僕を体現する、そんな名前だ。


to be continued... ?
2017年04月21日 16時12分32秒





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最終更新日  2017.04.30 10:16:12
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