Laub🍃

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2017.10.15
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カテゴリ: 🌾7種2次裏
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…少年の、細く、柔軟で、力の漲った脚。

 発展途上の―――未完成の道標。

 その脚は僕達を未来に連れて行き、その足跡は僕達の誇りとなる。


……はずだった。


*** ***


完成の再


ーあるいは、ある希望の話ー


*** ***





 少年の目は、常に光を宿していた。

 『未完』という形で完成されていた。






 その違いに、若いーあるいは青いと、侮蔑と羨望を抱いていた。



 無垢で、健気で、愚かで、傲慢な、『可能性』。






 世界に神は居ないから、未来に、可能性に祈りを捧げた。




 獣のような。
 赤子のような。
 あるいは、飛び出す形で固まった彫像のような。

ー光のような。


 僕の育てた少年は、そんな目をしていた。






 未完成とは、未来だ。
 未完成とは、今まさに生きて強くなっているということだ。

 少年は、未来を常に見据えて導く、ひたすらにひたむきに生を想うそんな目をしていた。

 常に進化し続け、その目は映すありとあらゆるものを取り込み続けた。



 育てがいがあった。
 教えがいがあった。



 仲間が居ないと駄目で、誰かが見ていないと駄目な危うさはあったが、それはリーダーになるならむしろ当然の素養でもあった。



ーそんな『あの子』が、僕に憧れた。

ー既に確定している、無様に泥に塗れた過去から出る言葉の数々を、『あの子』は、「何でも知っている」と形容した。

 僕の過去さえその未完成はいつか昇華してくれる。

 そう思ったから、彼を育て、試した。

 痛めつけた。

 潰した。

 汚した。

 それでも少年は生き続けた。


 あの場所からもう一度這い上がって来てからは、生きるために生きようとさえし始めた。


 山中を虫のように這いずり回った僕と同じ。


 死んでいった者の分も、生きようとする目。




 だから、信じていた。


 信じていたんだ。



 どこで間違ったのか。


 そこさえ間違えなければ良かったのか。




 ーどこだ。


 その目に最後に焼き付いたのが、あの暗闇でなければ良かったのか。



 彼の「隣」が消えて入った、暗闇などがあったことが。



 過去であったことが、いけなかったのか。



ーあの時。



 全てが終わった時、そこに誇りを胸に抱く者は一人も居なかった。
 行きたくないと、生きたくないと言う者さえ居た。


 少年も例に漏れず。


 ……彼らの感情を僕は分からないまま、ただ、この十数年で自分が言われ続けたことを、ただ言った。
 それしか、言えなかった。



「頑張れよ!」




 返事はなかった。



 光だけが無言で僕を見ていた。



 薄暗がりの中あの白だけが、残照のように焼き付いていた。


 扉が閉まっても、いつまでも―――いつまでも。




 少年は消えた。
 彼にかけた僕の声も消えた。








 僕の使命もー…僕の生きる理由も。





 『生きていく』とはどういうことか、分からなくなった。





 予備の17年を、定年後の老人のように過ごすと思っていた。






 『生きてきた』理由が、その機会が、もう一度巡ってきたのは想定外だった。



 僕は、彼をもう一度育て直したかった。



 だから、彼女を”ああ”育てた――――のだろう。




 僕のエゴが無意識に、『あの子』の姿を育んでいった。



 けれど彼女が彼に似ていくたびに、最後に見たあの白が蘇り、僕を苛んだ。

 考えた。
 自問自答した。
 本を漁った。

 前に少年を育てている時には考えもしなかったことの数々。
 僕に欠けた数々。


 どうすればいい。


 彼をもう一度育てるには。

 こんどこそ『あの子』を、僕の理想とした未来に連れて行くには。



ー僕だけではきっと駄目だ。

ー僕の知らない世界を、『あの子』に教えれば、こんどこそ、きっと。




 だから、あの人に言った。
 彼女は未来を見られるようにと。

 リーダーでなくていい。
 大事なものは少ない方がいい。

 そして彼女の愛する少ない相手はちゃんと一緒に生きさせてあげてほしいと。



 今度こそ、未来に夢を抱いたままで眠りに着けるように。



 未来で目覚めた後も、安らいで居られるようにと。




 英語で書けば、五文字。

 片仮名で読めば、三文字。

 平仮名にして、たった二文字。

 漢字にしてしまえば、一文字の名。


 祈るように握りしめた手と同じ形をした、未来に行く命の呼称。

 それを7つ、未来に託すプロジェクト。

 未来に命を託す為に存在するものーその名を彼女につけた先輩は、何を考えてそうしたのだろう。

ー逞しく生き抜いてほしい願いか。

ー過去を受け継いでいってほしいが為の仮託か。

ー過去よりも未来を見てほしいが為の、祈りなのか。





ー…僕は、少女を少年と違って、過去を置いていけるように育ててきた。


 『あの子』のようにはならないように。
 『この子』は『あの子』の、美しく、愚かな部分だけを受け継ぐように。

 過去の暗闇を見ないで済むように、過去を置いていっても狂うことのないように。

 未来に行ける者だけを愛せるように。


ーそこに僕は居なくても。




『…ように なろうね』



 ときたま、彼らにそうしたように、彼女にも生き方を教える。


「……人は、生きる為には生きられないんだよ」


 生き方は大事だ。
 僕が、君たちに願いを託さねば生きられないように。


「……?」

 少女はきょとんとしている。
 だが、いずれ分かるだろう。

「…だから、絶対になくならないと信じられるものができたら、大事にしなさいね」
「…難しくてよく分かんない」
「今はそれでいいんだよ」


 その時に、いつの日か来る未来に、この言葉が思い出せれば良い。

それまでは少し浮いているくらいでちょうどいい。
 危うい友情も、将来の具体的な夢も、社会に馴染む器用さも、要らない。



この世界は滅びるのだから。


この子にとって肝心要のものだけは未来に在れるように、少女は人で居られるように。



ーそう願って、少女を置いて、僕は先に眠りについた。





ーかくして、未来にいつかと願う彼女は目覚めた、そして与えられた死の選択を拒んだ。
彼女はもう大丈夫だ。

 かつてのあの子とは違うけど、それでも安心してみていることができた。

ー過去をいつかと願う彼が目覚め、出会うまでは。





ー最悪だ。

 どうしようもない。

 僕の責任だ。


 目を離したから。





 だから、少年の骸を灰燼に帰すことにした。
 僕の目の前で、僕の手で。







ー痛かった。




 相討ちで上々と覚悟を決めていた。


 少年はあの頃夢見た未来そのものだった。

 目の前に居るかつて少年だった彼は、過去そのものだった。


 僕の生きる理由は、夢見た未来を始める為にあった。


 ならば。


 僕の生きてきた理由は夢見た未来ー実際には失敗に終わった過去、をー終わらせる為にあったのだろう。


 これも、救いだ。

 救いようがない少年への、最期に残された唯一の救い。


 全部終わってもいい。
 全部捧げてきた結末。



「殺させない」
「あいつは俺達と違って綺麗なんでな」




 言葉は僕を止められない。



ーそれにーまだ汚れていないように思えるのなら、まだその綺麗が残る内に殺してあげたほうがいいだろう。
 僕の世界で生かしてきてこうなったのだから、そうしてもう手遅れなのだから、僕が殺さなければならない。

 少年は僕達のように汚れることもできなかった。

 それはそれで狂っているだろう。





 失望と怒りと興奮と懐古と、他にも様々な泥のような想い。

 使命感。










ー痛みは消える。





 脳の危険信号は、もう必要ない。





 僕は。

 俺は。

 私は。


 少年を殺す為に、神になる。




















 だが。



 結局それは失敗に終わった。

 少年の過去が俺を無言で見詰めていた。


ー痛みが蘇った。




 少女の未来が俺達を止めた。



ー痛い。



 少女の未来が彼女に声をかけ導いた。

 少年の過去が彼をずっと待っていた。



 僕の掌の外で。


僕が捨て去った場所で。





ー痛い。



 僕の側には、誰が。



ー痛い。




 誰も居ない。




ー痛い。




 自分で、なくした。

 要らないと言い続けた。


 生きる為に生きてきた。




 僕は、神どころか、人にさえなれなかった。


ー痛い。






 僕の過去は僕を置いていった。
 僕の未来は僕に問い掛けた。







ー痛くない。



 痛いと思ってはいけない。









 せめて、僕の過去と未来に託しながら、祝福を祈りながら、消えていこう。



ー父さんと母さんが、そうしたように。


















ーあの子の過去が、そうしたように。










 あの子には――――否、少年には、今度こそ声を掛けずに行こう。





 その目が、今度は闇を映さずに済むように。






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最終更新日  2017.10.23 20:48:32
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