Laub🍃

Laub🍃

2017.12.31
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カテゴリ: ◎2次裏漫
「おはよう」

逆さまの女が僕を覗き込んでくる。
それに僕は虚ろな笑みで返す、女はうっとりと微笑む。

これが僕達の日課だ。

「今日も、リハビリをしなくちゃな」

そう言って女は僕の腕をぶらぶらと動かす。
伸ばした上半身が僕の頭に覆い被さり、その柔らかな感触に興奮と寒気を感じる。

「痛かったら言えよ」

声が出ないのに無茶な事を言う。


「絶対に助けてやるからな」

この茶番から。

そう思う僕の目の前に、新たに女性が現れる。
彼女が手に持つコップを掲げる。
その匂いはおいしそうで、だけど僕はその中に神経を麻痺させる毒が入っていると知っている。
この人に初めて薬を使われた時は、大人しくその痛みを受け容れていたけれど、今はもうそれは恐怖の対象でしかない。
何度も何度も嫌だと叫ぶ。けれど心の中の叫びは一片たりとも表に出ない。
僕の頭上で女が薬を口に含み、僕に口移しで飲ませてくる。
声も、動きも、何もかも、僕は自由を奪われている。食事さえこいつらに管理されている。
薬、どろどろに溶けた食事、飲み水。
僕が呑み込んだのを確認すると、きまって女は微笑んで口を離す。



せめて心だけは守りたいのに、意に反して僕の人格は『***』……女の恋人に取って代わられそうだった。

以前、うっかりテレビで見てしまったオカルト番組をいつも思い出す。
生贄の魂を追い出して、神様か化け物か魍魎か、そういうものを生贄の体にうつすための儀式。

彼女たちがしているのはまさにそれだった。

嫌だ。

僕は僕のまま、この異常な空間から逃げ出したい。

そう思うのに、毎日盛られる薬の効果は確実に僕を蝕んでいく。

「これも運動の一環だ」

言い訳だ。
自分で自分を騙す女を睥睨するも、目線はまったく合わない。
そうこうしてる間に体は弛緩し、同時に僕自身は酷く興奮しはじめる。

「あ、あ、あ、あ」

女の体と柔らかい塊が目の前で揺れている。
僕自身も肉に挟まれている感触はある。

普通に元の世界で生きていれば今頃中学生だ、本来ならこういう事に興奮できた筈なのに、今の僕にこれは苦行でしかない。

こんな女じゃなくて、もっと柔らかで、こっちの都合を重んじてくれて、幼くて、僕が守ってあげたくなるような、花開く前の蕾のような女の子なら違ったのかもしれない。

僕にとって今やその双丘は恐怖でしかなかった。
母性のような、怪物のようなそれで食べられてしまいそうな恐怖。

はじめこの村に流れ着いた時、僕は確かに安堵し、普通に笑えていたのに。
まるでヘンゼルとグレーテルだ。
目の前の女は収穫を待つ魔女。
そして僕は目の前の女に搾取される時を待つヘンゼルだ。
グレーテルは居ない。

僕と女のやり取りを薄暗い目で見詰める白い鳥は、魔女の為に生きている。

「……あ……」
「…っ」

一瞬の締め付けに耐えられず、僕はつい精を吐き出してしまった。
…これが始まったら更にこの奇行が常習化することは目に見えていた、
だからずっと我慢していたのに。


「……ああ、先輩もきっと、これで、喜ぶ」


そう言って哂う女の下、僕は意識を手放した。









あれから数か月が経った。
女はあれから妊娠したらしく、腹を幸せそうに撫でている。
女が産んでしまったら逃げられない。

勿論、女が子供に気を取られるならそれは絶好の逃亡の機会だ。
何より、子供を産んだ瞬間に、女の興味が移る可能性がある。
そうなれば幸運だ。だが同時にそれは不幸でもある。
僕の身の安全は、群れのリーダーである女に保障されていた。
もしそれがなくなれば、僕を使って人体実験をしたがる女性や、女を第一に行動するあの副リーダーに、今よりもっと辛い目に遭わされる可能性だってある。

だから、今、動かないといけない。


女が外の仲間に呼ばれて出て行く。
その隙に手を握り、唾を飲み、足を動かす。
女の『リハビリ』のお陰で、あまり関節は固まっていない。
薬には慣れてきたせいか、効果が薄く感じられるようになってきた。
だがそれを表に出してはいけない。
油断させなくては。

逃げ道はある程度把握している。
この数か月、動けない分色々な事を考えてきた。
僕の事を基本的に彼女たちは部屋から出してくれないが、トイレや風呂等最低限人間的な生活は(介助付ではあるが)させてくれている。その間に周囲を観察し、推理し、ついでに獲物を捕らえてくる方向や鳴る音の方向から罠の位置を予測している。
また、彼女達は僕の呆けた表情に油断して、簡単な計画の話もここですることがある。
住まいの拡張計画や資源の場所など、あまり大きな話となると女も僕を置いて晩飯ついでにしてくるようだが、ちょっとした追加の計画や相談は、女が僕を『***』として認識している限り、阻まれない。
女は僕も聴いていた方がいい、と言うのだから。
そして女の仲間は女の妄想、錯覚を壊さない為に僕を下手に扱えないでいる。
この点だけは女に感謝だ。

だが油断させて逃げて、その後はどうしよう。
かつての仲間を探すまでに行き倒れにならないか。
食料はいくらか盗んでいった方がいいんじゃないか。
そもそもこの使われている薬には禁断症状は出ないのか。

ぎゅう、と手を握り、はっとして開く。
変な皺や痕が出来ていたらあいつらが怪しむ。

僕はまだ諦めていない。
染まってなんかない。

だけどこのままじゃ駄目だ。
誰も助けてくれない。

逃げなくちゃ。

この何もかもが狂って逆さまになった世界から。





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最終更新日  2018.12.29 06:20:32
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