Laub🍃

Laub🍃

2018.01.07
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カテゴリ: 🌾7種2次表
明けましておめでとうございます。
素敵な一年でありますように。

新年と言えば、7SEEDS世界の元旦(仮)の初夢はそれぞれどんなものだったんだろうなと気になります。







●以下、外伝の後の自己解釈補完的な安居独白+船組の日常妄想三人称SSです。
 安居が要さんについて考えてたり船組がミーティングっぽいことしてたり陸を離れても陸組とモールス信号でやりとりしてたりします。

 外伝前中後ネタバレしてますので未読の方ご注意下さい。


●蛇足↓
・光・音モールス信号の有効距離と船の速度がご都合主義


・船組航路:
  村(1月1日~外伝後編)
 →全国シェルター巡り(1~3年程度)  ←イマココ!
 ・要パイセン:船を双眼鏡で見てる
 ・陸組ピンチ(災害/資材)を安居・涼に代わりごんぎつねする要パイセン
 ・船組の日常の仕事:ミーティング、海洋資源調査、海図作り、海産物加工、海上栽培実験等
   まつりちゃんが二人にとっての「当たり前」をこの期間で聞く:陸組との懸け橋フラグ

 →村で資材整理、情報共有等
 →外国で生き残り捜し(3年~)

  ・多分数年後の外国航海では夏Bの何人かが一緒に航海する
・密航して見守る要パイセン


 →村(数年後億人起床)
 →外国で生き残り捜し
 →…

  ・未だ見ぬ新大陸に幸あれ




●大丈夫そうな方どうぞ↓



********


********


********






 その願いは、いつからのものか。

 安居は覚えていない。






********

…に願いを

********


ー失敗作。

 その言葉は、安居にとって要との決裂を象徴していた。





 出航して数日が経過した。


 よく晴れた昼下がり、混合村の方を向いた甲板で一人安居は道具を研いでいた。

 太陽を雲が隠しては流れる青空に、磨いたばかりの甲板。
 安居の白黒の短髪をそよがせる、柔らかな海風。

 遠くから微かに螢の鳴らす鐘が響いて、午後2時を告げる。

 日干しした洗濯物が視界の端ではためいている。
 もう少しで完全に乾きそうだ。

 そんなのどかな世界で安居は時折海面を眺め、異常がないか確認しながら作業に戻る。

 ここでは、ひどくゆったりと時間が流れている。

 弔って、謝って、宣言して…陸での心残りが少し減ったお陰もあるのかもしれない。

 …その分、これまで考える余裕のなかったことも、抑えこむ理由がなくなった。
 海のように凪いだ目で、安居は今日も考える。


ーもしも。

ーもしもあの時謝られたり情を示されていたら、要「先輩」をまだ信じていられただろうか。



 安居が一人で単純作業をこなしていると、ふわふわと浮かんでくる問い。
 未だに少し痛みをもたらすそれらを、安居は静かに受け止める。







 理解も、謝罪も、同情も、最後まで先生と先輩は口にしなかった。

 『犠牲にしたいと思ったことなんかない』安居と同様に、『人の心を壊したいと思ったことなんかない』のか。
 教師の頑なな使命感が全てで、考えすら浮かばなかったのか。
 言わないことこそが正義で、誇りだったのか。

 何の為に……人類の為に。
 人類というくくりの中では、安居達の存在も、想いもあまりにちっぽけだから削ったのか。

 人類存続に必要な道具として洗練する為に尽力していただけなのか。

 今安居の手の中にある作りかけの道具のように、そうすることが材料の真価を発揮すると信じて。
 剪定した木のように、削った分だけ他の部分が伸びるよう願っていたのか。

 親の情のような愚かな希望を抱かせない為だったのか。
 …希望を抱かない癖。それはまさしく、あの施設の生活で叩き込まれたことだった。

 なくてもいい。
 要るわけがない。
 どうでもいい。
 ない方がいい。

 削られて奪われて、かつての安居達はそう思い続けなければいけなかった。
 そんな安居達の目の前に、削ってきたものが現れた時。
 要「さん」は、それを憎むとは思わなかったのだろうか。

 理想的な道具ならば、初めから誇られるような対応を出来ると信じていたのか。
 多少リスクがあってもきっと、自分達と違う場所で育った彼らを導き、全てをやり遂げられると。
 そう、失敗作でさえなければ―――…



「あっ…」

 失敗した。

 手元が滑り、研磨していた釣り針の先が大きく欠けてしまった。
 7つ目まではうまくいっていたから油断した。

 折角いい感じに出来ていたのにと思いながら、尖っている先を砕き先日拾った空き瓶に入れる。

 ……道具は「失敗」ならば、片付けられてしまう。



 けれど、人は。


「もう少し練習だな」




 もう一度取り組める。 




 人は、自分自身を育てられる。
 失敗から学び、歩む道を選び、より良い未来を願える。

 光のある方へ、背負ったものの重さで、前のめりでも歩き続けられる。


「……よし」

 昨晩の食事の残り、巻貝で作った釣り針。動物の骨とは少し勝手が違う。
 だけど今度はうまいこと材料を使いきって、釣り針を量産できた。

 先程のものと合わせて、紐を結んだ瓶に入れる。


ー大丈夫。

 失敗は繰り返さない。

ー大丈夫だ。

 消耗品じゃない。

 失敗で、終わらない。

ーここに居るのは、道具じゃない。













「想定していたよりも減りが早いな」
「…次に航海する時はもう少し準備期間を長くとるか」

 夜分、静かな船室で、食材や道具の在庫確認とメンテをしながら涼と安居は話していた。

 陸を離れて一週間。日課は釣りに素潜り、周辺や水中資源の観察と、星による現在地の確認、天候の確認に、船内で育てられる植物や動物、生け簀の世話、図鑑に載っているものと近い海生生物の試食、手作り道具の試行錯誤と枚挙に暇がない。
 メンバーは3人だけ。クソ真面目な安居に、冷静な涼に、ムードメイカーのまつり。
 夏Bで旅行していた頃と比べると静かだ。蝉丸のようにふざけたり、ナツや螢やちまきのように物語や薀蓄を話す声がない。
 けれど人が少ないからこそ、一人一人のやることは多い。
 その忙しさと業務の為の話し合いは施設の同クラスとの関わり合いを想起させた。

「そうだな。……もう少し人数も増えるかもしれないし」
「外国で出会った奴らがどういう奴らなのかも分からないしな。保存食を食い潰すタイプや偏食だったら困る」

 子供の頃は食事に頓着しないタイプだった涼、施設の食材に毒草が混ざり始めた頃真っ先にバーベキューを虹子としていた涼。そんな涼の言葉に安居は嘆息しながら返す。

「この世界で生き延びてるなら流石にそこまで酷くはないだろ」
「だといいが、夏のBチームの例もある」

 安居の脳裏に虫に怯えていた嵐と蝉丸が思い浮かぶ。肉を捌けるのに虫には近付きたくないだの何だの、基準が分からない。
 要さんや牡丹さん達が居たとはいえあれだけ計画性のない食事と危機管理でどうにかなっていたっていうのは一種の才能だ。

「…あいつらだってこの世界に来た当時よりはましになってるんじゃないか。それにきっと、追い詰められたら何だって食べられるだろうよ」
「何だって…そうだな、きゃーきゃー喚きながら食うかもな」

 違いない、と2人で少し笑った。

 気付けばメンテは終わっていた。



 夏のBチームとの賑やか……を通り越してかなり騒々しい航海は未だに彼らの記憶に残っていた。

 蟹に貝に海藻などを料理し、三人で食事をする度に、デッキ等の掃除をする度に浮かんでくるそれは温かいものであったし、思い出話を元にして次の予定を立てるのは存外に楽しいものだった。

「陸のものをどれだけ海上で育てられるかだよね。食べるにしても、外国に持ってくにしても…」

 例の大豆の他にいくつか苗を持ってきていたまつりが言う。

「植物や動物のライフサイクルや生活圏を考慮しつつ、地道に試していくしかないな。
 ……ここいらの生き物はしぶとく進化しまくってるから大丈夫な気もするが」

 つい先日、ややねばねばになりながらも蜘蛛を数匹捉えてきた涼が言う。

「…季節や天候によっても大分条件が変わってくるから、それが心配だな。異常気象もまだ起こりそうだし」

 気象や波についてのメモを傍らに置いた安居が言う。


「やっぱり途中で小島に降りて…」

「地図をもう少し正確に描けたら…」




 作業の為の、明日の為の会話。


 …また、まだ見ぬ未来の、一緒に船に乗る誰かの話もたまに含まれる。

「船室の数は多いから、動線や使い勝手によって各々部屋を選ぶとして…」

「海のものを取るのがうまい海チームがもし…」

「頑張れば海のものを取れるようになりそうなのは…」

 次にもう少し大勢で乗る時には、こうした会話が過去になり、経験として血肉になればいい。
 その乗員は、価値観の違う外国人かもしれない。もしかしたら、今日本で待っている誰かかもしれない。


 そしてたまに、昨日の為の会話、過去の想い出についての話をする。




 …その直後ぶすくれた涼にどつかれることも一度や二度ではなかったが、夏Bに教えられた漫才のようだなと最近安居は思えるようになった。
 勿論それを口に出したらまたどつかれるだろうから、安居は口には出さない。



 三人で話している内に出てくるのは食事のこと、放課後の生活、授業中の豆知識、校舎の周辺状況、こっそり食べた野イチゴなどなど。巨船で話に出たカレーと同じく、外の世界と自分達の世界が繋がっているのは安居にとってわずかな安らぎと慰めとなった。

 涼もそうした話題の時は柔らかい顔をしていた。

 その空間の色はどこか…安居が丘の上で焦がれた、あの遠い世界のそれに似ていた。



 今夜は2日ぶりの快晴、くっきりとした満天の星空が頭上に広がっている。海面も凪いでいて、計測と観測には絶好のコンディションだ。

 夜にする仕事の一つは、星空を眺め位置・方角確認の記録をすることだった。どれだけ進んだか、どういった海流に乗ればスムーズな航海になるか。その情報はきっと今後も役に立つ。

 いつものように甲板から混合村の方角を眺めるが、もう灯りは見えない。
 夜の水平線はひたすらに黒かったが、代わりに頭上に広がる星空が安居に夜景を思い起こさせた。

「……滅びなかったな」
「何か言ったか安居」
「!」

 思わず肩が跳ねた。涼は数メートル離れた先で手作りの羅針盤を試している。馬鹿な独り言で邪魔をしてしまった。

「いや…もう流石に村の灯りは見えないなと」

 嘘ではない。実際、村の灯りと鐘の音は毎日気にしていた。
 幸い涼はごまかしとは取らなかったようで、羅針盤の目盛りを微調整しながらも鋭い声で返してくる。

「見えなくてもいいだろ。お前は心配し過ぎなんだよ」
「…別にいいだろ」
「ふん」

 陸を離れてから、安居は混合村の方角で発生するもの、昼の煙や夜の灯りが気になって仕方がなかったのだが、涼はいつも過保護かという顔で安居を見る。
 いざとなれば大人数で安全に逃げられる手段をたったの3人で独占しているのだから、気にすることは安居にとって義務だった。正当に交渉した結果とはいえ、その後に災害が起こったならば話は別だ。

 けれど、涼の見解通りここ数日間のろしやモールス信号が助けを求めてくることはなかった。
 心配を抑えられなかった安居は主に小瑠璃に向けて灯りのモールス信号を打っていたが、結局は大丈夫と言われ、食べられるものが増えただの新しく楽器を作っただの近況報告を返されるだけだった。
 頻繁に連絡していたせいか、簡単なモールス信号を何人かが覚え始めたり、蝉丸が妙なテスト連絡をしてきて、直後ナツや嵐がフォロー連絡をしてきたりと阿呆らしいトラブルはあったが、概ね陸も海も平和だった。まつりとナツが覚えたての拙い長話をしている様子を見て、安居と涼は施設の楽しかった頃を思い返した。
 安居も、ナツから出来ることが少しずつ増えていると連絡された。
 火を起こすのも、崖登りも、植物チームでの貢献も。
 アドバイスの必要が少なくなっていることは、安居にとって少し寂しかったが、同時に嬉しくもあった。
 蜘蛛の飼育の様子を源五郎達、橋の使い心地やメンテ方法を蘭、虹子達と話すこともあった。

 この連絡は概ね、船出前より物理的な距離は遠くとも心の距離は近いようだった。
 食べるかどうか迷っていた怪しい海生生物の可食部を伝えたり、海藻の新たな使い道を模索したり、天候について互いに報告しあったりと、数日間充実した連絡が続いた。

 …今はもうその灯りは波の向こうだが。


『滅びるんだ』

 陸の灯り、安居達に向けて放たれる光は平穏の証だった。
 けれど、安居はそれをもう呪うことはない。
 その平穏は、彼らが必死にこの世界で生きて獲得したものだったし、悲惨な記憶も未練も和らいでいた。

『滅びてしまえ』

 そう呪った安居は、もう居ない。嵐の青い劇薬のような理想と、茂の最後の想いが止めた。

 そして角又の読経と、かつて殺した十六夜の話を聴いた時静かに霧散していた。

 だから、そんな今ならここよりもっと外の世界では、憎しみでも切迫でもないものを背負って、誰かとともに歩める筈だ。


 そして、いつか…


 あの灯りを、ともに作れたら。






Last updated 2018.01.15 01:22:47





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最終更新日  2018.02.08 04:47:59
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