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米澤穂信『本と鍵の季節』~集英社文庫、2021年~ 高校2年生の図書委員、僕―堀川次郎さんと松倉詩門さんの2人が活躍する連作短編集です。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。―――「913」受験準備のため委員会を退いた3年生の浦上先輩が図書室にやってきた。おじいさんが残した開かずの金庫を開けるのに協力してほしいというのだが…。「ロックオンロッカー」松倉と2人で美容院を訪れた僕。慌てたようにやってきた店長の言葉の意味とは…。「金曜に彼は何をしたのか」職員室前の窓が割られ、生徒指導部の先生から目を付けられていた学生が呼び出された。僕たちに相談にきたその弟いわく、兄にはアリバイがあるが、それを兄は決して言わないため、一緒に証拠を探してほしいという。「ない本」自殺した3年生の友人から、亡くなった生徒が読んでいた本を探してほしいと依頼を受けた僕たちは、詳しい状況を聞き取っていくが…。「昔話を聞かせておくれよ」僕と松倉は、それぞれの昔話を語り合う。そして、松倉の父の秘密に近づいて行くことに…。「友よ知るなかれ」その後日譚。――― これは面白かったです。 魅力的な謎、謎解きの妙、そして全体的にビターな後味の物語です。 冒頭の「913」から、思わぬ展開に引き込まれます。 その他、印象的だったのは「金曜に彼は何をしたのか」と「ない本」。それぞれの人の思いが印象に残ります。 朝宮運河さんの解説によれば、続編も予定されているとのこと。次作も楽しみです。(2024.02.04読了)・や・ら・わ行の作家一覧へ
2024.05.25
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フィリップ・ティエボー(千足伸行監修/遠藤ゆかり訳)『ガウディ―建築家の見た夢―』~創元社、2003年~(Philippe Thiébaut, Gaudí. Bâtisseur visionnaire, Paris, Gallimard, 2001) 知の再発見双書の1冊。 スペインはバルセロナのあまりにも有名な未完のサグラダ・ファミリア聖堂の設計者アントニオ・ガウディ・コルネット(1852.6.25-1926.6.10)の、様々な業績と人となりを、豊富な図版を交えて紹介してくれる1冊です。 本書の構成は次のとおりです。―――日本語版監修者序文第1章 カタルーニャ地方の主都、バルセロナ第2章 イスラム建築の影響とカタルーニャ主義第3章 ゴシック様式とフランス合理主義第4章 生き物のような建築第5章 サグラダ・ファミリア教会資料編―ガウディがのこしたもの―1 ガウディの作品マップ2 シュールレアリストたちの解釈3 シュールレアリストたちの賛辞4 写真家クロヴィス・プレヴォーが見たガウディ5 熱烈な鑑定家、ペドロ・ウアルトガウディ略年譜INDEX出典参考文献――― 本文約100頁、資料編約30頁、冒頭にも書いたように図版が豊富なのでとても読みやすいです。 私は近代建築には全く詳しくないので、様式論などについてふれる資格はありませんので、簡単に印象に残った点のみメモしておきます。 ひとつは、ガウディの人柄。たとえば、建築学校時代、墓地の設計図の試験の際に、まわりの雰囲気を表現することも重要と考え、悲嘆に暮れた人々や灰色の雲が垂れこめる空などを書き加えたところ、教授はそれを間違いと決めつけますが、ガウディは修正する気がなく、そのまま教室を出てしまったとか(24頁)。その他、カラフルなタイルをはる作業のとき、新しい建築技法になかなかなじめない石工たちは、ガウディが満足するまで何度もやり直しをしなければならなかったという証言も紹介されています(69-70頁)。 一方、サグラダ・ファミリア建築にかかる膨大な資金集めのため、自ら道行く人々に寄付をつのったそうで、みすぼらしいかっこうのガウディを揶揄する風刺画も残されています(94-95頁)。 次に、その作品については、独創的な建築物の写真がどれも興味深いですが、特に印象に残ったのは、グエル邸の家具です。曲線が美しく豪華な椅子は、デザインが優れているだけでなく、「シートや背もたれの曲線は座る人の体にきちんと合うように、さらには上品な姿勢を保つことができるように計算しつくされている」(59頁)そうですし、非常に不安定な左右非対称の鏡台も、脚の部分にブーツのひもを結ぶときに足をのせるための小さな台がついていたりと、実用面でもすぐれています(42,59頁)。 最後に、私も少し興味を持っているシュールレアリストのダリも、ガウディの作品を非常に称賛していたということで(資料編3)、こちらも興味深く読みました。 普段はほとんど触れない分野の本ですが、興味深く読めた1冊です。(2024.01.31読了)・西洋史関連(邦訳書)一覧へ
2024.05.18
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松本清張『点と線』~新潮文庫、1987年改版(1995年82刷)~ あまりにも有名な長編作品ながら、今回初めて読みました。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。――― 博多付近の海岸で、青酸カリ中毒で死亡した男女2人の遺体が発見された。 情死として処理されていく中、古参の鳥飼刑事は、男性が持っていた列車食堂の受取証に記されていた「御一人様」という記載に疑問を持つ。なぜ、女性は一緒ではなかったのか。捜査を進めるうち、違和感はますます募るが…。 一方、遺体で見つかった男性―佐山は、汚職事件が摘発の進行中だったある省の課長補佐だった。その線で捜査をしていた警視庁捜査二課の三原警部補が、福岡署を訪れる。三原は、鳥飼の話に興味を持ち、あらためて事件を捜査していく。その中で、男女が特急を乗るのを見ていた目撃情報に、作為的なものがあったのではないかと考えるが、疑惑をもった男のアリバイは完璧なようだった。さらに、事件に関与しているという思いは強くなるが、どう関与しているかもなかなか見えてこず、三原の捜査は難航していく。――― 平野謙氏による解説によれば、本作は「推理小説としては松本清張の処女長編」(228頁)とのことです。また平野氏の解説には、肝心のネタはさすがに割らないものの、やや詳しく説明があるため本作未読の場合は注意が必要ですが、クロフツなどアリバイもののミステリの系譜の中に、本作の意義を位置付けていて、興味深いです。 さて、私は横溝正史作品からミステリに興味を持ち、その後、当時活況を呈していたいわゆる「新本格」(つまり、いわゆる「社会派推理小説」へのアンチテーゼ)を中心に読む、といったあたりから読書を始めているので、本書をはじめとする社会派推理小説はあまり読んできていませんでした。とはいえ、本作はとても面白かったですし、以前紹介した『砂の器』も面白かったので、食わず嫌いはもったいないと再認識した次第です。時間は有限なので、なにもかも読むのは難しいですが、これからもいろいろ読んでいきたいとあらためて思った次第でした。 意味不明な感想になってしまいましたが、あらためて、今回読めて良かったです。 良い読書体験でした。(2024.01.30読了)・ま行の作家一覧へ
2024.05.11
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青崎有吾『早朝始発の殺風景』~集英社文庫、2022年~ 青崎有吾さんによるノンシリーズの短編集。 同じまちが舞台で、エピローグでは各物語のその後の様子も描かれますが、基本的には独立した5編の短編が収録されています。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。―――「早朝始発の殺風景」早朝始発の電車に乗ると、普段離さないクラスメイトの殺風景が座っていた。僕―加藤木と殺風景は、お互いが早朝始発に乗る理由を推理し始めることになる。「メロンソーダ・ファクトリー」仲よし三人組でいつものファミレスでしゃべっていた私たち。学園祭のクラスTシャツのデザインを選ぶ中、私の提案に対して、いつもなら受け入れてくれるはずの詩子は別のクラスメイトのデザインを選び…。微妙な空気になる中、詩子の選択の理由をノギちゃんが推理する。「夢の国には観覧車がない」フォークソング部3年生の引退記念でテーマパークにやってきた俺は、あまり話したことのない後輩とペアになり、観覧車に一緒に乗ることに…。果たして後輩が俺を観覧車に誘った意図とは…。「捨て猫と兄妹喧嘩」公園で捨て猫を拾ったあたしは、両親の離婚により別々に暮らしている兄に連絡を取る。アパートに連れて帰れないため、兄に引き取りをお願いするが、兄の言葉にはどこか違和感があり…。「三月四日、午後二時半の密室」クラスに最後までなじめた様子のなかったクラスメイトが、体調不良で卒業式を欠席。そんな彼女のもとに卒業アルバムを届けたわたしは、なんとなく帰りそびれて、少しずつ彼女と話をするが、急に違和感に気づき…。――― これは面白かったです。 車両、ファミレス、観覧車、レストハウス、級友の家の部屋という5つの場所で、2~3人が話す中で生まれる違和感や疑問を解き明かしていくというスタイルの物語。決して派手な動きはないのに、物語にぐいぐい引き込まれます。 特に好みだったのは「メロンソーダ・ファクトリー」。主人公の最後の「修正」に心を打たれます。 また、「夢の国には観覧車がない」も良かったです。読後、このタイトルをあらためて、あらためてその深さを感じました。「三月四日、午後二時半の密室」も、タイトルが素敵なのはもちろん、何も謎がなさそうでいて途中からミステリの雰囲気が高まっていくというつくりも素敵でした。とりわけ、クラスメイトの煤木戸さんが語る、勉強する理由が印象的でした。 池上冬樹氏による解説も分かりやすく秀逸です。 あらためて、これは面白かったです。良い読書体験でした。(2024.01.27読了)・あ行の作家一覧へ
2024.05.04
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