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2021.12.04
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鷺沢萠『帰れぬ人びと』
~文春文庫、 1992 年~


 鷺沢萠さんのデビュー作「川べりの道」を含む4編の短編が収録された作品集です。

「川べりの道」 は、母を捨て別の町に別の女と住む父のもとへ、毎月決まった日に生活費をもらいに行く 15 歳の少年、吾郎が主人公です。年が離れ、仕事をしている姉と二人で暮らす吾郎は、毎月、川べりの道を通って父の住む町へ訪れます。ある日、思い出のお皿をその家で見つけ、また父と女が言い争っている声を聞いてしまい…。
 吾郎くんに毎回行かせる姉への思いや、ラストの吾郎くんの行動など、印象的でした。

「かもめ家ものがたり」 かもめ家という名前の料理屋だった店を譲り受け、一人で切り盛りするコウは、ある日、店のほうに歩いてくる女性に気を留めます。女性は客ではありませんでしたが、その後も何度かいろんな場面で出会います。どこかで見たことがあると考えるコウですが…。
 こちらも好みの物語でした。

「朽ちる町」 週に何度か、塾講師を引き受けた英明は、仕事を終えるとその町を訪れます。塾に来る子供たちは、いろんな環境もあってかなかなか勉強が苦手な子もいますが、それぞれの様子を見ながら教えていました。しかし英明は、その町の独特のにおいが気になっていました。人に聞いてにおいの正体はわかるのですが、その町の歴史を振り返り、様々な思いがめぐることになります。
 過去の経験から、引っ越しを繰り返す英明さんに、町が見せる表情が印象的です。

「帰れぬ人びと」 アルバイトできた大学生の苗字を聞き、村井は、過去に自分の父を裏切った男との親族関係を疑います。しかし、直接は聞けず、また学生の態度がその男とは似ても似つかないことから、無関係と考えこもうとするのですが…。
 先に紹介した​ 『ケナリも花、サクラも花』 ​の中で、「みんな「事情」を抱えている」という章があるのですが、その中で、本作の一節が引かれています(『ケナリ』 98 頁、本書 175-176 頁)。なかなか壮絶な過去をもつ村井さんも、学生も、それぞれの「事情」を抱えています。独特の余韻の残る作品です。

 小関智弘さんによる解説に、「この作品集に収められたいずれの小説も、町がもうひとりの主人公になっている」との言葉があり( 236 頁)、たいへん納得しました。吾郎くんが月に一度訪れる町、かもめ家のある町、講師として訪れる独特のにおいのある町、そして失われた故郷のある町(またいま住んでいる町)。それぞれが、物語を引き立たせます。

(2021.10.10 読了 )

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Last updated  2021.12.04 11:58:41
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のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

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