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2015.08.15
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  5歳の夏



  なぜ僕はあの日の空の色を覚えているのだろう

  僕は官舎の廊下に独りでいた

  20歳の兄はソ満国境近くの陣地にいた

  17歳の長姉は川越の女学校にいた

  13歳の次姉は杉並の女学校にいた

  母は台所でお昼の支度をしていた






  なぜ僕は何度も何度も空を振り仰いだのだろう

  庭の青桐でアブラゼミが鳴いていた

  聞いているだけでジトジト汗ばんでくる

  空を見上げると一瞬爽やかさに包まれた

  どこまでも青が澄んで天上に届いていた

  その空に白い雲の色で思いでを描いた

  家族と団欒している楽しい思いでだった



  なぜ一人一人はみんな暗い顔だったのだろう

  大人なら負けると誰もが思っていた

  敵機が我が物顔に頭上を飛んでいる



  どうにもならないから行くしかない

  銃後の民も死ぬことが行くことだった

  どこに行くのかは誰も解らないでいた



  なぜ今日も暗く始まったのに今は静かなのだろう

  青桐のアブラゼミも姿を消していた



  空腹を忘れるためにまた空を振り仰いだ

  天上に届く青のままだけど息苦しかった

  庭の木戸がパタンと開き父が入ってきた

  父は僕を見ずに廊下へ大股で歩いてきた



  なぜ父の声は静寂をポンと破って響いたのだろう

  「おい、戦争は今、終わった終わったぞ」

  台所から母が「本当ですか」と駆けてきた

  「本当だ。陛下が放送で仰せになられた」

  頷いた母が全身の力を抜いて廊下に崩れた

  僕は空を振り仰いでゆっくり深呼吸をした

  僕の息が澱みなく澄んだ青に溶けていった













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最終更新日  2015.08.15 21:36:31
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