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2025.09.17
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にゃあ……これは、今からちょうど20年前のこと。
春の終わり、夏の気配が鼻先をくすぐる頃、にゃんこは、九州の片隅から旅に出たんだ。
背中にカメラ、首にスカーフ、しっぽはピンと立てて、山陽道をビューンと走り抜けて、しまなみ海道へと向かったのさ。
いつもなら朝ごはんを食べる時間に、大島PAにたどり着いた。
ふわりと潮の香りが鼻をくすぐる。にゃんとも気持ちいい。


※画像はAIによる生成(Gemini使用)

公園の芝生を踏みしめながら、因島大橋を見上げると、朝の光が橋の鉄骨をキラキラと照らしていた。
「にゃーん、これは絵になるぞ」と、ぼくはカメラを構えた。

観光案内所でパンフレットをもらい、次なる目的地――亀老山展望台へと向かう。
前回の旅では夜遅くて見られなかった、ぼくの心残りだった場所だ。

高速道路を走っていると、車窓から見える風景があまりにも美しくて、思わず「にゃっ!」と声が出た。
橋のたもとで車を止めて、下道へ。
風が耳をくすぐり、潮騒が足元を包む。
大島に入ると、まずはカレイ展望台へ。
ここからは、今まで渡ってきた島々がまるで猫の手のひらに乗る箱庭のように見える。
そして、亀老山展望台へ。今治の街並みが遠くに広がり、海がキラキラと輝いていた。
「にゃーん、これだよ、これが見たかったんだ!」と、ぼくはしっぽを振って喜んだ。


※画像はAIによる生成(Gemini使用)
その日は天気が最高で、空は青く、雲はふわふわ、風はそよそよ。
前回の四国一周では夜の闇に包まれていたこの景色が、今回は太陽の祝福を受けていた。

来島海峡大橋を見上げながら、船はゆっくりと進む。
橋の下をくぐるとき、巡視艇が「ブォン」と音を立てて追い抜いていった。
漁船が瀬に集まり、海面がキラキラと揺れる。
橋の上から見る景色もいいけれど、船から見上げる橋は、まるで空に浮かぶ巨大な猫の背骨のようだった。

フェリーが今治に着いた後、糸山公園へ戻って、来島海峡大橋をカメラに収める。


翌日は雨の予報だったので、沈下橋を見に高知・中村方面へ向かうことにした。
奥道後の山々を抜け、松山から高速をひた走る。
トンネルを抜けるたびに「ゴォン」と音が響き、ぼくの耳がピクピク動いた。
高速の終点からは、山間の狭い道をくねくねと走る。道はどんどん細くなり、離合が大変になってくる。

四万十川沿いの道をのんびりと走っていた。
窓を少し開けると、ひんやりと澄んだ空気がふわりと車内に流れ込み、鼻先をくすぐる。
川の水は「さらさら」と音を立てて流れ、陽の光を受けてキラキラと輝いていた。
まるでガラス細工のように透明で、見ているだけで心が洗われるようだった。

そのとき、道の端で立ち止まっていた外国人サイクリストの集団が目に入った。
色とりどりのジャージに身を包み、旅の地図を広げながら何やら相談している様子。
彼らの視線の先を追ってみると、川の向こうに一本の橋が見えた。
岩間にひっそりと架かるその橋は、まるで川の精霊がそっと置いたような佇まいだった。


※画像はAIによる生成(Gemini使用)
「にゃっ!見つけた!」思わず声が漏れ、ぼくは車を止めて橋へと向かった。
それは四万十川名物の沈下橋。
正式には「潜水橋」とも呼ばれるこの橋は、増水時に水面下に沈むことで流れに逆らわず、壊れにくい構造になっている。
欄干がないのは、流木や濁流に引っかからないようにするため。その潔い設計が、逆に橋の美しさを際立たせていた。

橋の幅は車の幅ギリギリ。タイヤが橋の端に近づくたびに、ぼくのしっぽは緊張でピンと立った。
欄干がないから、風が吹けばふらりと落ちてしまいそうな気がして、肉球にじんわりと汗がにじむ。
川面はすぐそこ。水の音が「しゃらしゃら」と耳に心地よく響き、橋の下を魚がスイスイと泳いでいくのが見えた。

慎重に渡って対岸へ。橋を渡り切ったときの安堵感と達成感は、まるで冒険を終えた勇者のようだった。
河原に降りて、石の間を歩いていると、小さなカニが「ちょこちょこ」と顔を出した。
甲羅は赤茶色で、陽の光を浴びてピカピカと光っていた。
ぼくが近づくと、カニは慌てて石の隙間に隠れたけれど、しばらくするとまたそろりと顔を出して、こちらをじっと見ていた。

風が川面をなでるように吹き抜け、草の匂いがふわりと鼻をくすぐる。
遠くで鳥のさえずりが聞こえ、空には白い雲がゆっくりと流れていた。
にゃんとも心地よい時間だった。
沈下橋の上に立って、川の流れを眺めていると、まるで時間が止まったような気がした。

この沈下橋は、四万十川流域に数十本も点在していて、それぞれに名前と物語がある。
ぼくが訪れたのは岩間沈下橋。
昭和三十年代に架けられたもので、地元の人々の生活道として今も現役で使われている。
朝には通学する子供たちが自転車で渡り、夕方には釣り人がのんびりと竿を垂らす。
橋の上では、誰もが自然と歩く速度をゆるめて、川の音に耳を傾けるようになる。


※画像はAIによる生成(Gemini使用)
※四万十川では観光遊覧船でも楽しめます。 20年前は帆母船にも乗れました。

橋のたもとには、地元の人が手作りしたベンチが置かれていて、そこに腰を下ろしてしばらくぼんやりと川を眺めた。
水面には風の模様が描かれ、時折魚が跳ねて波紋が広がる。その音に耳を澄ませながら、ぼくはしっぽをくるりと巻いて、旅の続きを思案していた。

沈下橋は、ただの交通手段ではない。
それは、川と人との関係を静かに語る場所。
増水すれば沈み、晴れれば現れる。
自然に逆らわず、共に生きる知恵が詰まっている。
ぼくはその橋の上で、風と水と光に包まれながら、にゃんとも贅沢な時間を過ごしたのだった。
またいつか、あの橋を渡りに行きたいにゃ。
そのときも、きっとしっぽはピンと立っているだろう。

四万十川の風に吹かれながら松山市内の宿へ戻ることにした。空は茜色に染まり始めていて、雲の端が金色に縁取られていた。

「しまなみの風と、道後の湯と、にゃんこの記憶」は4部作です。
下記のリンクをクリックすると、各ページに移動します。

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最終更新日  2025.09.22 23:38:55
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