田中およよNo2の「なんだかなー」日記

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2006年11月11日
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カテゴリ: 硬派
小説を自分なりに読んできたつもりだけど、「いい小説」ってなんだろう、って考えると、ものすごく難しい。

人によるとも言えるけど、僕は自分の中でも一番「いい」って決めきれないことは多い。

例えば村上春樹。

一番、凄えな、完成度が高いなって思うのは、なんといっても 「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」 だと思う。
どこに文句を着けていいかわからないくらい、すごくよく出来ている。
よくわからない暗渠とした世界を、外堀を埋める地道な物語で描いている。

じゃあ、一番 「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」 が好きなんですかって聞かれると、実はそうじゃない。
「ノルウェイの森」
この小説は傷が多いし、そんなにスゴイ出来ではない。
「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」のように緻密に組み立てられてもいない。

僕の描写は感傷に流れすぎている。
直子も、緑はすごい極端な描き方だし、第一、人が死にすぎる。
突撃隊は死んだかさえもわからず、テキトウなところで消えてしまっている。
素敵なおばさんであるレイコさんとエッチをしちゃうのは譲るとして、その描写がちょっと甘い。
もっと、村上春樹さんなら、ネチコクてもシャープに描写ができたんじゃないかとも、思う。
それに、なによりも僕は永沢さんの恋人のハツミさんがどうして、自殺させたのだろうって思う。
このとっても素敵な女性は生きつづけて欲しかったなって。

だけども、僕は 「ノルウェイの森」 がものすごく好きだ。

きっと、この小説自体がそういった傷を必要としていたんじゃないかとさえ思える。
好きな小説だからこそ、さっき書いたような文句も多くなるのかな。

じゃあ、もし、友達から「村上春樹は読んだことないけど、どれを読んだらいい」って言われても、「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」や「ノルウェイの森」は勧めない。
「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」はその完成度の高さから、読むのがシンドクなる人も多い。
「ノルウェイの森」は村上春樹さんの一連の作品の中では、かなり異色である。

「象の消滅」 「1973年のピンボール」 を勧める。

「象の小説」は村上春樹をアメリカに紹介するにあたって選ばれた短編選集だけあって、物語作家と、言葉遊びとしての短編がふんだんに交じっていて、深くて飽きない。
「1973年のピンボール」はかなり初期の作品だけど、不思議なイメージとか、漠然とした不安感とかがとってもあって、なんだか、彼の作品の一番のコアになっているように思う。
以降の作品群の予感が詰まっている。
そして、どっちとも、そんなに長くない。

勿論、完成度の高さ、好きさ、オススメする作品が一致する作家というのも、いる。
例えば、中上健次と、安倍公房になる。
中上さんなら、 「枯木灘」 、安倍さんなら
「砂の女」 になる。

でも、そういう一致した作家っていうのは、マレだ。

ただ、全作家が三つ別れているわけでもない。

ポール・オースターなら好きなものと、完成度の高いのは 「ムーン・パレス」 で一致してるけど、オススメするものは 「幽霊たち」 である。
これは、主に読みやすさってとこから、そうなってしまう。

まあ、僕にとって一番マレなのは三島由紀夫で、五作品くらい読んだけど、好きな作品はない。
オススメしたいのも、ない。
だけど、 「金閣寺」 の凄さっていうのは、凄い。
3回読んでしまった…
そのワリには内容は覚えていないけど、美しいってものを、劣等感に凝り固まった少年の視点で描いて、きっちりと読みきらせる描写はたいしたもんだなあって気がする。

…大作家に申し訳ない書き方ですね、はい…

なんというか、日本の美しさはなにかしらの劣等感でささえられているものが多いような気がする。

そして、三島由紀夫の文章は難解だといわれるけど、そんなことはないんじゃないかなって僕には思える。
確かに、漢字は難しいかったりするけど、谷崎潤一郎ほどじゃない。
文章の流れは論理的で、感覚一本であんまり説明がなく、ぽーんと描写してしまう川端康成よりは読みやすいと僕は思うのだけど。

ただ、好き、完成度っていうのは個人だけに留まってるで、人に影響を与えない。
オススメするっているのは、人と関係があるから、考え込んでしまう。

僕自身もウィリアム・フォークナーを本腰入れて読もうとして、どれがいいかって人に聞いたことが有る。
「長編だと 「サンクチュアリ」 が比較的短くていいんじゃないの」って勧められた。

読んでみたけど、ピンとこなかった。
暴力描写の凄まじさと解説にあった気がするが、たいしたことないように思えた。
それで、時間のある大学時代にはウィリアム・フォークナーは読まなかった。

卒業してから、別の友人に聞いてみた。
彼は、答えた。
「「サンクチュアリ?」あら、面白くないよ。 「響きと怒り」 「八月の光」 を読まなきゃ。これは、面白いよ。冒頭からひっぱられていくんだ」
ただ、残念ながら、今に至るまでこの二つの小説は読めていない。
短いだけで、人に勧めるわけにはいかないのかなって。

だから、好き嫌いや完成度は個人のものとして、本を薦めるときにはその人の趣向とかを聞いてから勧めるように、最近はしております。

「いい」って基準ははっきりしているようで、一番、曖昧なんだろうな。

なんか、小説になるとblogがものすごく、長文になるなぁ。
およよ。

※もっと、「なんだかなー」なら『 目次・◎ものがたり(映画、音楽、文学、本) 』まで





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最終更新日  2006年11月17日 23時04分57秒
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