綴れ織り夢日記

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2023.09.03
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私はその方の部屋に何度となく入り、介助を行った。

 その際に心に残った出来事がある。その方は私が入社してから、言葉を発するのを一度も聞いたことがなかった。
しかし、経口補水ゼリーをシリンジで介助しているうちに、口を真一文字に結んだので、「…?」。
「味、飽きますか?いつもの甘いゼリー食べる?」と、どうせ答えが帰ってくるわけもないのに、聞いてみた。
すると、結んでいた口がポフッと開いて「食べる。」…と確かに言ったように聞こえた。

「あはは、そうですか。わかりましたよ。今ご用意します。りんごが良いかな?みかんがいいかなぁ?」

この時点で飲み込む力はあるが、自力で吸う力はない。
シリンジを唇に当てると、赤ちゃんのような吸啜反射は相変わらずあるのだが…。

 その日の午後。無尿であることに気が付き、もう長くはない予感がした。

帰りがけ。考えたことがある。元々医大の助産師だった人だが、人生の最後の方は、まるで赤ちゃんのような状態になってしまった。
きっと、この人の魂は、今まで自分が世話をしてきた対象の身になって経験しているのである、と。
自分が正しかったのかどうか、物言えぬ赤子の身になって援助できてきたのかどうか、あのときどうしたら良かったんだろう?私は正しかったんだろうか?
そのように。

私は「それがわかったら、あの人は亡くなるのだろうな。」と予感した。

その夜は夜間待機だったが、実はその方はその夜安定した状態で経過した。
尿も出ていない、呼吸もやや努力呼吸気味である。こんな安定した状態はおかしい、と思いながら、朝4時の電話を切って日勤帯につなぐことにした。

しかし、6時半に電話が来て、明らかに様子がおかしい、呼吸が乱れている、とのことなので、「今行きます!!」と自転車を走らせた。

15分ほどで施設に着いて様子を見に行った時には、下顎に努力呼吸が見られた。「もうダメだ…。厳しい。」という印象だった。
かかりつけ医に電話したが、「昨日から、厳しいという判断があった。呼吸が止まってから、折り返し電話をください。」との回答だった。

そこから1時間も立たぬうちに、その方は静かに息を引き取った。

私の思い込みかもしれないが、最後の最後、彼女が「私はこれで良かったんだ。」と心から納得して、命への執着を手放して立ち去って行ったように見えたのである。

ちゃんとスタッフが困らない時間帯を選んで、静かに旅立っていった。
それを思うと、帰りがけ、涙にも似たこみ上げるような、感嘆と感謝があった。

「あの方。次はどのような人生を送るのかなぁ?」そんなことにも思いを馳せた。








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最終更新日  2023.09.03 22:09:55


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