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2010.05.20
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カテゴリ: びしびし本格推理
「宮沢賢治の迷宮」というサブタイトルのついた鯨統一郎の長編を読んだ。

○ストーリー
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』には,ダイアモンド鉱脈の位置を示す暗号が隠されていた。その暗号のカギを知る妻を謎の組織に誘拐された中瀬は,彼女を救うために友人たちと,宮沢暗号に挑戦する。

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「宮沢賢治の童話に暗号が隠されていたら?」というテーゼはとても魅力的だ。宮沢作品とミステリーの融合を期待して,様々な人が手に取ることもあるだろう。

「邪馬台国はどこですか?」という洒脱な歴史ミステリーの短編集でデビューをした鯨統一郎だから,見事に宮沢賢治作品との融合を実現していると思ったのだが,その期待は見事に打ち砕かれた。

まったく理解できない理由で,暴力とエロスの描写が多い。なぜよりによって宮沢賢治を取り上げた作品でそれをするんだろう?そのために,最後までしっくり来ない読書体験になってしまった。

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もちろん勉強家の鯨統一郎だから,この作品を読むだけで宮沢賢治の経歴や思想が分かるようにはなっている。いくつも引用される宮沢作品のおかげで,宮沢賢治の童話を読み返してみたい気持ちにもなる。



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『銀河鉄道の夜』の暗号,『風の又三郎』,山猫の守る山など,宮沢賢治ファンが喜ぶモチーフは多く含まれている。

返す返すも残念なのは,作者がこの作品を,ただの謎解きとトレジャーハントの作品にしなかったことだ。主人公の妻を誘拐する組織は,暴力をふるうだけでなく大規模のテロを予告している。構成員たちも話が進むほど異常さが増して行き,不気味なことこの上ない。

結果的に,なにやら暗く陰湿な作品になってしまっている。

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初の長編ということで,いろいろと意気込んでいるようだが,あまり力みすぎると,自分の良いところまで殺してしまう,という良い実例だと思う。

ダイアモンド鉱脈のハズが,ダイアモンド1個だけだった,というカンジでもある。







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Last updated  2010.05.20 22:52:57
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