December 30, 2005
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カテゴリ: 身辺雑記
母の体調はよい。食欲も充分にある。

きょうは弟が病院に来たのでむかしの話はあまりしなかったが、「瀬戸内ムーンライトセレナーデ」という映画の話から、汽車の旅はたいへんだったというような話になる。あの映画は、戦死した息子の骨を郷里の墓に届ける一家の旅を描いたものだった。

18歳まで岩手の寒村で育ち、いきなり朝鮮へ渡り、終戦の年の12月に20歳で帰国した母は、戦艦に乗って帰り着いた博多から岩手まで3~4日かけて鉄道で帰ったのだそうだ。

引き揚げ者は鉄道は無料で、引き揚げ者証というものを見せるとフリーパスだったという。

終戦直後でもそういうことがきちんと機能した日本の官僚制のすごさというか、秩序を重んじる日本人の性質には感じ入るものがある。

岩手に帰る鉄道の旅でその映画にあったような何かエピソードがないかと思ったが、通路まで人で埋まっていても「そんなものだ」と思っていたので特に印象に残ったことはなさそうだった。

鉄道の旅はたいへんだった。そのたいへんさは、けっこう最近まで残っていたと思うが、むかしはかなりの苦行を覚悟しなければならなった。

土砂崩れなどでよく不通になったし、座席の背は直角で硬く、温度も暑いか寒いかのどちらかだった。

それでも、それがあたりまえと思っていたから、誰もさほど不満にも思わなかったのだ。



3歳のぼくを連れての初めての里帰りということか。

秋の岩手は寒く、ぼくは熱を出してしまったのだそうだ。

しかし医者もいない寒村。思いきって町に出、抗生物質を買って飲ませ、そのまま北海道へ帰ることにしたのだという。

そうしたら、途中ですっかり元気になってしまったのだと言って愉快そうに笑った。

母はこのように豪傑なところがある。

人生でもっとも古い記憶は、その旅で日光の東照宮を訪れたときのものだ。薄暗く、寺のようなものがあり、人が多かった。

名所旧跡を訪れる旅がキライなのは、そのときの印象が影響しているのかもしれない。

寺や神社や教会を見ても、何がおもしろいかと思ってしまう。数分も見れば飽きてしまう。そんなものより、海や山や花や美女の方が何百倍も魅力がある。

こちらは、何時間眺めていても決して飽きるということがない。

ヨーロッパがいいのは、自然の風景をひきたてるように山の中に趣味のいい小さな教会が建っていたりするからだ。

むかしの記憶を呼びさまそうと努力するうちに気がついたのは、日常的なことはほとんど記憶に残っていず、旅のような非日常の体験ばかりが思い出されるということだ。






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最終更新日  February 5, 2010 11:36:04 PM
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