May 23, 2009
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カテゴリ: 映画
原題はCALLAS ASSOLUTA。2007年のフランス映画。監督のフィリップ・コーリーは「Matisse-Picasso」(2002年)という作品もあるドキュメンタリー映像作家らしい。

ちなみに、映画のタイトルは原題も併せて覚えておいた方がいい。外国人と映画について話すとき、タイトルがわからなくては話の糸口さえつかめないからだ。

ASSOLUTAとは、<究極の>とか<最高位の>という意味。直訳するなら「究極のマリア・カラス」といったところだろうか。

2000年以後に作られた6本目の「マリア・カラス」映画である。

チラシには、「2007年9月16日の没後30年目にパリ・オペラ座とミラノ・スカラ座でガラ上映され」「エンドクレジットが上がっても観客はしばらく席を立てませんでした」とある。

彼らはなぜ「しばらく席を立てなかった」のだろうか?

落胆と失望のあまり立ちあがれなかったのではないか。

簡潔に、濃い密度で、要領よくまとめられた「伝記映画」ではある。しかし、数十種類ある伝記や回想録、残されている映像の多くに目を通した人間からすると、新しい視点の提出はなく、興味を惹かれる資料や映像も少ない。

マリア・カラスという偉大な人物を描くには、いかにも準備不足でありやっつけ仕事だったという印象を禁じ得ない。



こう断定する伝記もあるが、事実はすべて正反対だった。自分の都合でキャンセルしたことは一度もないし、吝嗇だったのはマネジャーだった夫メネギーニであり彼女ではない。メネギーニはカラスの資産を流用していたのでオナシスが現れる前にカラスの心は夫から離れていたし、オナシスとジャッキーの結婚が政略結婚であることはわかっていたから、カラスはさほど動揺しなかったはずだ。

こうしたカラス神話=伝説が、この映画では(良心的なことに)さりげなく否定されている。しかし、いかにも通り一遍で突っ込みは浅い。

少し入念に資料を集めた人間なら、スキャンダルを「誤報」し続けたマスコミを筆頭に、カラスを「追放」したアテネ歌劇場、イタリア政府、メトやサンフランシスコのオペラハウスなどの犯罪(性)を糾弾し、カラスの謎めいた死(わたしは他殺だと考えている)、カラスの死後に遺産を横領した詐欺師カップル(弁護士とピアニスト)についての注意を喚起するのが、神話と伝説を否定する最良の、そして最も公平な方法であり、カラスの生涯を映像で伝えようという人間の神聖な義務だと考えるはずだ。

だが、このコーリーという映画監督は、そうは考えなかったようだ。典型的なフランス人なのか、神の高みからのご託宣のようにカラスの生涯を提示してくれている。謙虚に見せかけた傲慢さが見え隠れする。

対象に没入せよとは言わない。しかし、たとえばケン・ラッセルの「マーラー」は、やり過ぎともいえるカリカチュアライズをし、しかもマーラーの否定的な人格にスポットを当てながら、にも関わらず全体としてマーラーの音楽と人生を称揚した感動的な作品になっている。

疑似客観性を装ったこの作品を観て、わたしは、コーリーなる映像作家をカラスに寄生しただけの存在とみなす。

ただ、それではこの作品を観る価値がないかというと、そんなことはない。活字でしか知らないカラスゆかりの地の風景を見られるのはすばらしい体験ではあったし、カラスがオナシスの子どもを身ごもり、死産していたという「新事実」も明白な「証拠」と共に提示されている。

写真や映像はほとんどが既出のものだが、晩年のカラスにつきまとい遺産を横領した女ピアニストの動画も(一瞬だが)観ることができる。やはりカラスにつきまとった「世界一醜い女」と言われたゴシップ・コラムニストのエルザ・マックスウェルもたっぷり観ることができる。

世界一の美女と世界一の醜女が並ぶ映像は、ある強烈な印象をのこす。

会場へ出かけて初めて知ったのだが、フィルムではなくプロジェクターによるデジタル上映。そのため、ただでさえフォーカスの甘い映像がさらに甘くなっていて、「銀幕でカラスに会う」期待はほとんど満たされることはなかった。

日本での公開がフィルムにならなかった経緯については疑問が残る。






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最終更新日  May 27, 2009 03:29:47 PM
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