June 27, 2010
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カテゴリ: 映画
NHK-BSで放映された「河内山宗俊」(山中貞雄監督)をうっかり見逃してしまったので、たった一日、それも二回しか上映しない「白痴」を見逃すわけにはいかなかった。当時31歳の原節子に会うのは、これを逃したらいつになるかわからないからだ。

1951年、人口32万人の札幌でロケされた作品、ということで今回「シネマの風景フェスティバル」に取り上げられたのだが、それとわかる場所は少ない。この映画を観てそうしたノスタルジーにひたることのできる人はもうほとんどいないにちがいない。

すごい映画だった。短縮版でも2時間46分という長尺(完全版のフィルムは失われてしまったらしい)にまったく長さを感じなかった。

それにしても、ドストエフスキーの「白痴」を、よくぞこうした密度の濃い映画にできたものだと思う。黒澤明自らが脚本を書いているが、物語の核心をぐいとつかまえてざっくりと示すその才能には驚嘆させられる。ただ、最後の一言、久我美子に言わせた「白痴の人がいちばん賢い」というセリフだけはよけいだった。それは作品を観た人間なら誰でもわかることだからだ。

有島武郎の長男、白痴を演じる森雅之の演技はすばらしいの一言に尽きる。ヤクザ者の役である三船敏郎の演技が役柄ゆえに大仰になるのはある程度しかたがないにしても、少しわざとらしくやり過ぎに感じられるところがあるのに対し、知的に抑制されて静謐ながら雄弁。わたしは日本の映画俳優に精通しているわけではないが、森雅之以上の俳優というのはちょっと想像しにくい。

白痴の青年を押し付け合いながら奪い合う二人の女性の演技も迫力があった。特に、この二人が出会い、ある種の不条理な「対決」をする場面は圧倒的だった。顔のわずかな表情の変化がどんな演技よりも雄弁に心理とその変化、感情の動きを表していて圧巻。

全編、冬の札幌でのロケであり、これでもかとばかり豪雪や吹雪のシーンが表れる。建物の中にあたりまえに雪が入り込んでいたりするが、風の吹き込んだ石炭ストーブが火を吹く場面と同様に、このあたりは黒澤的過剰の世界で、楽しめる人とやり過ぎと感じる人がいるにちがいない。

日本映画の黄金時代には、この映画のような名作がたくさんあるにちがいない。大画面テレビで観るしかないケースがほとんどだが、やはり映画館の大画面は情報量が圧倒的にちがう。特にこの映画のようなちょっとした表情の変化が映画の重要な要素である作品はなおさらだ。

その大画面のおかげでおもしろく感じたのはこの頃の「スタア」たちの歯。原節子は銀歯が見え隠れするし久我美子の歯並びは悪い。美容歯科などというものはこの頃にはなかったということだ。



初期から中期にかけての、世界中の映画学校で教材としてして使われているような「クロサワ映画」を集めた映画祭があるならぜひ出かけてみたい。      





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最終更新日  June 28, 2010 04:09:36 PM
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