September 3, 2010
XML
カテゴリ: 映画
3週に渡って上映されている蠍座の企画「昭和の名男優・喜劇な人びと」に選ばれた6作のうちの1作。社会派として知られる山本薩夫監督の1965年作品。同時に観た1964年の「馬鹿まるだし」がカラーなのに対し、この映画はモノクロ。この時期、日本映画はモノクロとカラーが混在していた。

山本薩夫監督の映画は、社会派でありながら娯楽性にも不足せず、どこかハリウッド映画に共通する大衆性を感じさせると思ってきたが、この映画も同じ印象。いっときの娯楽を求める人々と、映画に何かしら社会的なメッセージを求める人々の両方を満足させる作品になっている。

1965年の映画だが、時代設定は終戦まもない1948年。ハイパーインフレで貨幣価値がなくなりアナーキーな雰囲気が満ち、鉄道謀略が相次いだ不安な時代を背景としている。

土蔵破りに失敗して逃げる途中、不気味な集団を目撃する前科3犯の男。その直後に列車転覆事故が起きる。相棒のドジで4度目の刑務所入り。しかしそこで出会った列車転覆事件の犯人とされる人たちが無実であることを知る彼は、そのことに口をつぐみもぐりの歯医者として成功し人並みの幸福を手に入れていた。元々、根からの悪党ではなく、人間らしい心を持つ彼は、えん罪を晴らそうと説得に訪れる弁護士たち、刑務所で共に過ごし出所した被告の父子に出会い、とうとう自分の幸福を犠牲にして法廷で証言することを決意していく・・・というお話。

貧しさゆえに歯医者への道を断たれ、しかも家族を養うために名人芸的な泥棒になった主人公の生きざまと、松川事件に取材したと思われる社会問題をうまく絡ませていて見ごたえがある。

しかし何と言ってもすごいのは、主人公の浮沈激しい泥棒・もぐりの歯医者を演じる三國連太郎の演技である。歯医者のときには知性を、土蔵破りのときには大胆不敵な悪党ぶりを、結婚してからは小市民さを、クライマックスといえる法廷での証言シーンでは、いかにも東北人らしい純情素朴さを、ごく自然に感じさせるからすごい。特にこの証言シーンでの演技は彼以外では不可能だったと思われる。名優というか怪優、いや快優と言うべきだろう。刑事役の怪優・伊藤雄之助のとぼけた味わいもこの映画ならではだが、伊藤雄之助の怪優ぶりを食うほどの迫力と存在感には、大俳優の称号が贈られてしかるべきだろう。

そこで思うのは、私生児として生まれ、養父は被差別部落民、中学を中退して中国に密航し、釜山で弁当売りをしたり、徴兵を逃れるために脱走し逮捕され、戦争からは命からがら生き延びて帰国したといった三國連太郎の実人生・実体験があったからこそ、これだけの演技ができたのではないだろうかということだ。もちろん生まれつきの才能や俳優としての勉強の蓄積もあるだろうが、野太く生き、しかし純情もあわせもつ人間を演じることは、渥美清のテキ屋体験などと同じで、実体験なくては不可能だったと思うのだ。

最後の法廷のシーンは日本映画史に残る名シーンだ。このシーンを母語で味わうことのできない外国人はなんて不運なのかとさえ思う。抱腹絶倒のあと、裁判闘争の勝利を確信させるように映画は終わるが、やはりここでも戦後日本の初心、屈託ない健気な明るさが印象に残る。狡猾で陰湿な体制側の人間とは対称的に、貧しくても健気で、民主主義と明るい未来を信じて生きていた人々の素朴な善良さには素直に感動させられる。

上映最終日に観たのが失敗だった。日をおかずもう一度映画館で観たいと思った久しぶりの映画。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  September 7, 2010 03:05:04 PM
コメント(0) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

プロフィール

ペスカトーレ7

ペスカトーレ7

バックナンバー

December , 2025
November , 2025
October , 2025

© Rakuten Group, Inc.
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: