October 4, 2010
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カテゴリ: クラシック音楽
今年はショパンとシューマンのアニバーサリー・イヤーである。だから、注意深くこの二人の作品の演奏会を避けてきた。依頼公演ならともかく、自主公演でアニバーサリー作曲家を取り上げる音楽家など信用ならない。そこには何の価値創造性もないからだ。

札幌出身でビュルツブルグ音楽大学講師のピアニスト、新堀聡子(しんぼりさとこ)の札幌における初リサイタルはオール・ブラームス・プログラム。別にアニバーサリーをあえて避けたというわけではなく、彼女が最も共感する作曲家がたまたまブラームスだということだろうが、ブラームスの、それも比較的コンサートでは演奏される機会の少ない作品を集めたプログラムに惹かれて行ってみた(10月1日、ザ・ルーテルホール)。

滞独8年というから30歳を過ぎたくらいだろうか。違和感を感じずにはいられない関係者だらけの会場に、真紅の演奏会用ドレスを来た美人ピアニストが現れた瞬間、またお嬢さん芸を聞かせられるのかと来場を後悔した。しかし、鳴り響いたのは、お嬢さん芸どころか、これほどのブラームスはいまやドイツでもめったに聴くことはできないと思えるほど芸術的な純度の高いものだった。

一曲目、自作の主題による変奏曲(1857)から共感に満ちた演奏が繰り広げられる。ブラームス自身が演奏してもこれほど音楽の中に深く入り込んだ演奏ができるだろうかと思うほど。なぜこんなに共感豊かな演奏ができるのか考えてみたが、それはこのピアニストがブラームスの音楽の特徴のひとつであるハーモニーの進行を常に意識し完全に把握しているからのように思う。

2曲目は8つの小品(1871、1878)。各曲のキャラクターを明確に描き分け、しかもそれが全体の統一感を損なわない演奏。5曲目(カプリッチオ)はとりわけ見事で、激しくても乱暴にならず、気品を保ったまま情熱的に高揚していく演奏に引き込まれた。

休憩後はピアノ・ソナタ第3番(1853)。前半の演奏から、この曲の演奏がすばらしいものになることは予想できたが、予想をはるかに上回る名演で、やはり「8つの小品」のときと同じように、各楽章の性格の描き分けと全体の統一感が奇跡的に共存していた。フィナーレで見せた息の長いフレーズの白熱した高揚は、日頃コンサートやこの曲になじみのない聴衆をも説得したようで、この手のコンサートとしては異例なほど客席も盛り上がった。

感心するのは、テクニックと表現の間に全く乖離がないことで、このピアニストの音楽に向き合う誠実さを示していたと思う。

ショパンを紹介するシューマンのように、このピアニストを紹介したい。諸君、脱帽したまえ。大ピアニストの登場だ。





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最終更新日  October 7, 2010 05:12:15 PM
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